世界的なスキル不足でテクノロジーが貢献できることとは?


ジャッキー・カーター、グループ・デジタル・エンゲージメント・ディレクター
 

 
1分で読める記事まとめ
  • 世界経済フォーラム(英語のみ)によると、自動化の進展と新型コロナウィルスの蔓延が労働市場に「二重の混乱」を誘発。人材危機が悪化し、世界的な課題に。
  • 新しい時代に突入してもなお、機械ではなく人こそが最も価値ある資産であり、企業やリーダーはその未来を守る義務がある。
  • そこで一役買っているのがテクノロジー。学び直し、グロースマインドセットの促進、生涯学習の定着に貢献している。
  • 仮想現実(VR)やモバイルラーニング、個々に合ったトレーニングなど、テクノロジーのもたらす可能性は多岐に渡っている。
2030年までに約3割のビジネスパーソンがリスキル(学び直し)を求められる時代に
 
実は新型コロナウィルス蔓延のはるか前から、世界的なスキル不足の問題は急速に顕在化していました。2020年1月、WEFは世界の労働人口のおよそ3分の1にあたる約10億人以上(英語のみ)が2030年までに学び直し(リスキル)を迫られるとの予想を発表。同年10月に公開した。未来の仕事やスキルに関する考察をまとめたレポート、「Future of Jobs Report 2020」(英語のみ)では、スキル不足の問題は今回のコロナ禍でさらに拡大し、40%が学び直しを迫られると明らかにしています。
 
イギリス国営放送・BBCは「2025年までに半数近くの仕事が自動化される可能性がある」(英語のみ)と報道しています。今後は、専門性の高い新しい仕事やスキルへの需要の増加が予想されますが、そのほとんどはテクノロジー関連のものになると考えられます。AIや機械学習、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、ブロックチェーン、拡張現実(AR)、VR、フルスタック開発などが、数年以内にニーズが急拡大するとされています。
 
一方で技術的なスキルの他にも、ソフトスキルへのフォーカスも忘れてはなりません。ソフトスキルとは一般に創造性やレジリエンス(危機や困難な局面からの回復力)、クリティカルシンキングなど人間固有のスキル。自動化やAIでは代替できないものです。ビジネスリーダーは、新しい時代を乗り切るためにもメンバー個々の成長に力をいれなければなりませんが、このためには文化や行動面での変化を敏感に感じ取り、これを効果的かつ大規模にチーム運営に活かしていくことが必要です。
 
テクノロジーでグロースマインドセットを育むための3つの方法
 
スキル不足の問題に効果的に、かつ長期的な視野で対応するために、ビジネスリーダーは、メンバーがグロースマインドセット(英語のみ)を持ち続けられるよう支援していく必要があります。グロースマインドセットは、新しく学んだことを日々の仕事の中に活かし、課題や障害に直面した時も学びや成長のチャンスと捉えることができるようになります。
 
しかし、現実は理想どおりには進みません。最近の調査によると、多くのビジネスパーソンが将来の雇用機会を広げるために学び続ける意欲があると答えていますが、大多数が十分な時間やチャンスがない、と答えています(英語のみ)。事実、1日に捻出できる学習時間はわずか5分程度(英語のみ)の人が大多数。学習時間や機会の不足は、企業にとっても大きな損失。スキル不足が深刻化するうちに、イノベーション、生産性の向上やデジタル化の加速が減退するからです。
 
では、これらの課題解決に、テクノロジーはどのように役立つのでしょうか。私の考えを一部紹介します。
 
1. “環境からの学び”の疑似体験に
 
ビジネスの世界では毎日が学びの連続。仕事でのコミュニケーションや環境から、私たちは自然に、無意識にさまざまな事を学んでおり、これが“環境からの学び”です。70-20-10モデル(英語のみ)によると、学びには一定の法則があります。
 
  • 70%は、仕事で得た経験
  • 20%は、コーチングやメンターなど仕事によるリレーションシップ
  • 10%は、トレーニングなどの正式な学習過程
前出の「Future of Jobs 2020」によると、ビジネスリーダーの94%が、自分の部下には形式張ったトレーニングよりも、実践を通して学んでほしいと考えています。コースをいくつか提供するだけでは不十分であり、これらを補充する役割を果たすソーシャルラーニング(SNSなどを通じた学習)や“環境から学ぶこと”を推奨しなければなりません。そしてまさにここがテクノロジーの出番なのです。
 
学習には、IoT(モノのインターネット)が便利です。インターネットに接続されたデバイスは(英語のみ)、専門性が高く教育的な環境が整ったソリューション。「Google Classroom」や「Facebook Workplace」、「FocusMate」、「PukkaTeam」などの仮想コワーキングスペースを使用すれば、協業やブレインストーミングなどを効率的に行えます。適切なツールにより、日常的な学びが疑似体験できるのです。
 
VRや「v-learning」も普及しつつある学習ツールの一つです。仮想現実を取り入れることで、ユーザーはプログラムの世界観に入り込むことができ、他の参加者との交流を楽しみながら学習を進めていくことができます。世界的なコンサルティング企業であるPwCの調査では(英語のみ)、ソフトスキルのトレーニングにVRを採用したところ、トレーニング後に275%以上効果的に学習内容を活かして行動できると判明。教室での研修に比べて40%、eラーニングに比べて35%もの向上が見られました。
 
2. 利便性の高いオンライントレーニングとして
 
コロナ禍は、子供たちの教育にも大きな影響を及ぼしています。コロナ禍が最も危機的な状況にあったときには、世界で およそ12億人の子供たちが学校閉鎖等で通学できない状況に追い込まれたのです(英語のみ)。このとき存在感を発揮したのが、eラーニングでした。テクノロジーは、ビジネスにおける「学び」にも変革をもたらせると理解したのです。
 
従業員のセルフモチベートをいかに支援し、また、どのように自分自身で学びを得てもらうかは、多くの企業が直面している課題の一つです。学び方を再度考え直すにあたり、誰もが簡単に利用できる方法であることは重要です。モバイルラーニングやマイクロラーニングなら、どこにいようとも隙間時間にアクセスできるため、継続して学んでいくことができるようになります。
 
マイクロラーニングは、5分程度の短時間で学習できるコンテンツを豊富に揃えており、まとまった学習時間を取れないビジネスパーソンでも、サクッとライトに学習することが可能です。動画やインフォグラフィック、シミュレーション、ポッドキャストなど多彩な形式で提供されています。
 
EdTechによるコンテンツも充実しています。Esme Learning社が提供するRiff形式の教育ソリューション(英語のみ)は、クラウドベースのビデオとチャットのプラットフォーム。個人のデジタルコーチがリアルタイムで指南してくれます。また、現場作業向けのプログラムもあります。倉庫業務従事者のための学習プラットフォーム「How FM」(英語のみ)は、多言語によるオンライントレーニングや教材を提供しています。
 
ヘイズでも無料で使えるオンライントレーニング「HAYS THRIVE」を提供。このポータルは、コロナ禍という危機に際し、企業やビジネスパーソンが効果的に事業を展開する支援になれば、との願いから作られたものです。今後も多くのオンライントレーニングポータルが誕生するでしょう。自社のITチームや外部のEdTech企業を活用すれば、リモート学習を推進できます。
 
協力先は、EdTech企業だけとは限りません。教育機関と協力した例もあります。一部の企業は学術機関と提携し、学生とのつながりやキャリアの機会を設けています。IBM(英語のみ)はニューヨーク市内の公立高校と提携し、同校の生徒のためにITのトレーニングコースを開設しました。また、クラウドサービスを手掛けるRackspace社は、セキュリティについて学べるブートキャンプ、「Open Cloud Academy」を立ち上げ、トレーニングや認定資格も付与しています。
 
3. オンラインツールの自動パーソナライズ
 
グロースマインドセットの根付く社風を築くためには、使いやすい学習ツールを用意するだけでは不十分です。個々人に合ったパーソナライズが可能であること、そこで役立つのが、AIや自動化のテクノロジー。これらは、ユーザーそれぞれのニーズや関心に応じた学習方法をカスタマイズできます。ゲーム利点を活かした「ゲーミフィケーション」は、学習支援のためによく使われる手法で、個人のペースに合った学習プログラムを組んだり、他のユーザーとの健全な競争を意識させ学習意欲を高めたりできます。
 
機械学習のアルゴリズムを使えばそれぞれのユーザーの学習結果が予想でき、各ユーザーの目標や過去の成績に基づいて個別に具体的な学習コンテンツを提供することも可能。これによりユーザーエクスペリエンスが向上し、適した時間に適した教材の提供や、エンゲージメントと結果の後押しにつながります。たとえば、「Quizlet」という学習プラットフォームをご存じでしょうか。これは、オンラインを使った学習支援ツールで、ユーザー自身がオリジナルの問題やフラッシュカード(漢字や数字、物の名前などを書いたカードを相手に見せながら、高速でめくっていく手法)を作成可能。機械学習を活用し、忘れやすい用語を優先することで、効果的な学習へと導いています。
 
AIは処理速度が非常に早く、ほぼリアルタイムで採点や解説ができるのも特徴。AIを駆使した仮想学習アシスタントを提供している「Cognii」(英語のみ)は、機械学習を用いて学習を個別化し、フィードバックプロセスを迅速に処理しています。
 
バーチャルアシスタントも、適切な教材へのアクセスを促すツールのひとつ。EdTech企業のEdmentum社は、米国内の小・中・高で働く教師が新しい教育プラットフォームの使い方をマスターできるよう、バーチャルアシスタントシステムを立ち上げました(英語のみ)。また、自動化機能を使い、アメリカの各州で定められた学習指導要領に適合するようオンラインカリキュラムをカスタマイズしています。
 
テクノロジーを学び、テクノロジーから学ぶ
 
最高情報責任者(CIO)やIT部門など、テクノロジーを統括する役職や部門がビジネスで果たす役割は、ますます重要になっています。テクノロジーは、使いやすく、個々のニーズに応じた学習ツールを提供する役目を負っています。組織や従業員を“二重の混乱”から守るものであり、適切なスキルの習得や、新しい時代でも継続するグロースマインドセットの構築を支える存在なのです。
 
また、現在のビジネス環境では、適切なスキルだけではなく、学び続ける意欲を持つ人材へのニーズが急速に高まっています。学習する文化の醸成、コンテンツへの手軽なアクセス、利用への動機づけを強くお勧めします。将来性につながる資質である学習意欲と適応力に優れた需要の高い人材から選ばれる企業になるために、欠かせないものなのです。
 
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著者

ジャッキー・カーター
カスタマー・エクスペリエンス・ディレクター
 
人材派遣業界で30年以上の経験を持ち、オペレーションやマーケティング、RPO、テクノロジーなどヘイズのさまざまなビジネスの分野で専門知識を発揮。ジャッキーのミッションは、人事および幅広い業界・職種における新しいトレンドとテクノロジーおよび、ヘイズが未来のビジネスに貢献するために必要なツールの選定・評価・実装。
 
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