私たちはなぜ働くのか
アリスター・コックス、ヘイズCEO
6~9歳の子どもの67%(英語のみ)が、将来のキャリアにおいて地球環境の保護が重要なミッションだと考えているという記事を読みました。興味深いデータではありますが、驚くべきことではありません。年齢に関係なく多くの人たちが、キャリアを決める上で社会的な意義や自分たちの取り巻く世界を守ることを重要視するようになってきているのではないでしょうか。
それが地球やコミュニティを守るためなのか、それともヘイズにとって重要な人々の可能性を引き出すことやお客様の生活を向上させるということなのかということに関係なく、私たちはとてつもなく大きな何かに突き動かされているのです。
人間というのは、常に「目的」を求めています。そして、この目的の多くは仕事を通して見つけていくものなのではないでしょうか。
なぜ働く目的を見つけることが大切なのか?
仕事をするのは、単に生活費を稼ぐためだけではなく自分が役に立っているという実感を得るためでもあります。LinkedIn(英語のみ)の調査によると、52%の求職者が企業のミッションや価値観、目的を知らなかったり、賛同できない場合、内定を承諾しないと回答しています。
しかし、このように求職者の考え方が変わってきているのはなぜなのでしょうか。その答えは簡単です。私たちは、テクノロジーの急速な変化や社会的・環境的な動き、平均寿命の上昇、需要の変化の時代に生きています。世界には素晴らしいものが多くありますが、解決しなければならないことも多くあります。その結果、このような問題を解決する手助けをしたいと感じている人が増えているのです。
そうすると、自分の生活や仕事について、自然と考えが変わってくると思います。貢献したいという生来の欲求が生まれて個々人が責任感を持つようになり、自分たちは本当に有意義な時間の使い方ができているのか疑問を持つようになるでしょう。
私たちは、子どもの貧困をなくすことや環境問題を解決することが決して一人の力ではできないことだと理解していると思います。この地球上で何か意味のあることを成し遂げるには、協力して問題に取り組んでいかなければなりません。自分の価値観に合った、目的意識の高い企業に参加することで、チームの一員として世界に良い影響を与えることができるのです。
企業の目的―今後の経営者にとって重要になるテーマ
実際のところ、リーダーとして企業を成長させたいならば、そのビジネスをなぜ行っているのかを定義して伝え、実行していかなければなりません。リスクは高いかもしれません。もし失敗すれば、私たちの周りの世界や社会に良い影響を与えることができなくなります。また、従業員に働く理由を与えることや、顧客や株主と関係を構築することもできず、ビジネスが成り立たなくなるからです。この「目的」は、その企業の規模や世界のどこにあるのかということに関係なく、今後経営者にとって重要なテーマとなるでしょう。
ある調査によると、ビジネスの目的を定義し、それに基づいて行動することができている企業は、金融市場を42%(英語のみ)も上回る業績を挙げているそうです。また、目的意識の高い企業で働いている従業員は、仕事に行くのが楽しみだと考えている可能性が14倍(英語のみ)も高いのです。さらに、ConeとPorter Novelliの調査によると、67%(英語のみ)が、目的意識のある企業は自分自身や家族を大切にしてくれていると回答しています。他にも、79%がブランドの目的に愛着を持っており、73%がブランドを守っていきたいと答えました。
企業の目的は「何」ではなく「なぜ」
しかし、企業の目的とは具体的にどのようなことを意味するのでしょうか。まず、企業のミッションと目的は異なるものであることを認識する必要があります。ミッションとは何を達成しようとしているかで、目的はなぜそうするのかということを意味します。自分の読んだ記事でこのようなものがありました。その中で、シューズブランドTOMSの創設者であるブレイク・マイコスキーは「会社のミッションは靴を売ることですが、目的は無料で靴を提供していくことです」と話しています。
以前から存在していたものの表現を変えて使用しているという企業も多いのではないでしょうか。ヘイズの場合はまさにそうでした。何千人ものプロフェッショナルがキャリア支援を行い、企業が才能あふれるチームを作るためのサポートを行っています。仕事の世界に力を与えるのがミッションです。しかし、最近定義した目的は、人々の成功を支援し企業を繁栄させることで、社会に貢献し機会を創り出して生活を向上させることです。これこそが最終的な目的であり、ビジネスに携わる誰もがそのことを知っていましたが、これまではこのような形で表現をしていませんでした。
企業の目的を定義し直そうと考えている場合は、以下のような一流ブランドの例を参考にしてみてください。
・「世界の情報を整理し、誰もがアクセスでき、役に立つものにする」Google
・「持続可能なエネルギーへの移行を加速する」 テスラ
・「人々の生活を向上させ、広げ、さらにその先を見つけるために」 NASA
・「世界中の全てのアスリートにインスピレーションとイノベーションを提供する」Nike
ここで心に留めておいてほしい重要なポイントは、企業の目的がすべてのステークホルダーに本当に目指しているものだと感じてもらう必要があるということです。そして、その目的は、彼らが刺激を受けて行動をしたいと感じるようなもので、スクリーンに映る白黒の文字以上の存在である必要があります。だからこそ、時間がかかっても、目的を定義することに本気で取り組まなければなりません。
企業の目的を信じてもらうために
企業の目的を定義した後も、継続して取り組んでいかなければならないことは多くあります。目的は、ビジネスのDNAに組み込んで初めて意味のあるものになるのです。まだ、プロジェクト全体を止めて次の優先事項に進むべきではありません。企業の目的は、常に優先順位の高いアジェンダに設定しておくべきでしょう。
コンサルティング会社PwC(英語のみ)の調査によると、心配なことに企業の目的に愛着があると答えた回答者はわずか28%で、自分たちの生み出している価値を明確に見出すことができると回答したのは39%のみでした。このような残念な状況は、おそらくリーダーシップの失敗が原因の一員ではないでしょうか。ビジネスリーダーの79%(英語のみ)は企業の目的がビジネスの成功のために重要な要素であると考えていますが、34%のみが企業の目的に基づいて意思決定を行っていると話しています。リーダーにとって企業の目的がビジネスを行うための道標ではないとしたら、他の人たちにとってもそのようなものにはなりえないでしょう。
企業の目的を継続的かつ一貫して行っていくことはリーダーの仕事です。研修プログラムや社内コミュニケーション、製品、サービス、毎週の会議、福利厚生など、企業のあらゆるものは目的に基づいて行われなければなりません。毎日何らかの方法で目的を実行することができれば、その効果を実感できるでしょう。
ビジネスに組み込まれて初めて社会からも、それが本当に企業の目的だと信じられるようになります。そのためには、努力やコミットメント、継続性が重要です。
目的意識の高い人材を採用する
何時間にもわたるブレインストーミングや社内での意見交換を経て、最終的に誰もが納得する目的を定義し、それをビジネスに組み込むことができたとします。しかし、その後目的意識の高い適切な人材を惹きつけるためにはどのようにすれば良いのでしょうか。多くの企業がこの点で行き詰っていると思います。
・社員の声を使って企業の目的を伝える
アウトドアブランドのPatagoniaは、企業目的を象徴するような従業員体験を創り出すという点で主導的な役割を果たしています。彼らの目的は「地球を救うためにビジネスを行う」です。そのため、従業員が抗議活動を含む環境保護を支援する様々なチャリティやボランティアの機会を利用できるように、多くの福利厚生(英語のみ)を提供しています。実際、2019年9月、Patagonia(英語のみ)は世界中のオフィスや店舗を閉鎖し、社員が気候変動に対する行動を求める若者の抗議活動に参加できるようにしました。また、LushやBen & Jerry's(英語のみ)などの企業も同様の姿勢をとっています。このような行動は、ブランドの意図する方法で社会に貢献できるだけでなく、社員が企業の目的により愛着を持つことができるようになります。また、社員が企業の目的に積極的に関わるようになると、自分の体験をSNSのフィードや友人、家族と共有するようになり、同じ目的意識を持った人材が集まるでしょう。
ヘイズでは、社員が個人のSNSを通して「目的」のために取り組んでいることを積極的に共有しています。履歴書の書き方を解説するイベントの開催や募金活動への参加、専門家によるアドバイスの提供、求職者の転職成功のお祝いなど、ヘイズの社員は毎日、#WeareHaysや#HaysHelpsのハッシュタグを使って、人々や企業の成功に貢献するためのストーリーを共有しています。私は、社員が当社の目的を実践していることを誇りに思っています。また、様々な面で社員がそのことを伝えたいと考えているのは素晴らしいことです。
目的を持った社員の声は強力なツールです。目的を自然かつリアルに伝えることができるだけでなく、彼ら自身に合った方法で伝えることもできるからです。そうすることで、優秀な人材の目を引くこともできるでしょう。
・目的を達成するための価値観や行動を知る
企業の目的に合った価値観を持つ人材を採用することは非常に重要です。そこで、長期的な視点で、どのような価値観が目的達成に必要か考えなければなりません。
PwC(英語のみ)は、必要な価値観を見極めるために、その企業にとって重要なことは何なのか考えることを勧めています。例えば、ヘイズでは、プロフェッショナルと企業の繁栄を支援することを目的の中心に据えています。そのため、採用する人材に求める価値観の一つに「人への情熱」を挙げています。また、ステークホルダーと強固で長期的な関係を築くことができるかということも求める行動の一つです。
面接でこれらの価値観や行動を評価する際には、「なぜ当社で働きたいのですか?」、「職場でポジティブな影響を与えたときのことを教えてください」、「成功するためのモチベーションは何ですか?」など、価値観に基づいた質問を何点かしてみてください。例えば、ヘイズでは、その分野の専門家であることをもう一つの価値観としています。そのため、面接では、候補者がどのようにして業界に身を置き、トレンドを把握しているかについて質問することがあります。
目的はオプションではありません。目的は不明瞭なものではありません。目的とは地球を救うことだけではありません。目的とは全てのステークホルダーに価値を提供することです。目的とは義務と説明責任のことです。目的とは社会に貢献することです。目的とはビジネスの新しいやり方です。このような目的意識は、現在働いている社員も、これから働こうとしている社員も、常に働いているときに感じてほしいことなのです。今こそ、「当社のビジネスはなぜ存在するのか」と自分自身に問いかけてみてはいかがでしょうか。
アリスター・コックス/ヘイズCEO
2007年9月よりヘイズのCEOを務めている。1982年に英国のサルフォード大学で航空工学を学んだ後、ブリティッシュ・エアロスペースの軍用機部門でキャリアをスタート。1983年から1988年までシュルンベルジェに勤務し、ヨーロッパと北米の石油・ガス産業において現場や研究の職務に従事した。
2002年には、ITサービスおよびバックオフィス処理会社であるXansaのCEOとして英国に帰国。Xansaでの5年間の在職中に、組織の再編成を行い、英国を代表する官民両部門のバックオフィスサービスのプロバイダーとなり、インドに6,000人以上の従業員を擁する、この分野で最も強力なオフショア事業を構築した。