「ロックダウン世代」のためにリーダーができることは?
アリスター・コックス、ヘイズCEO

 

学習機会の減少やインターンシップの取りやめ、卒業式中止。さらには、内定取り消しや、就職ができても自宅待機。新型コロナウイルス感染拡大は、社会人としてのスタートラインに立とうとする若者たちから、人生の節目の重要な経験を奪いました。人生の計画は乱れ、若者はキャリアに行き詰まりを感じています。
 
多くの評論家(英語のみ)が、新型コロナウイルスの危機は全世代のキャリア選択肢を狭めてしまうことになるだろうと述べています。しかし、個人的な意見としては、このような状況によって自身のキャリアの可能性を狭めてしまう必要はないと考えています。ビジネスリーダーとして、若者たちがいまだかつてない危機に直面している事態を傍観していることはできません。私たちリーダーが、行動をしていかなければならないのです。
 

コロナ禍で最も影響を受けているのは若者のキャリア

人生初の仕事というのは、非常に大きな意味を持ちます。私も昨日のことのように覚えています。この経験によって、その後の仕事やキャリアに対する考え方が決まっていくからです。それは、人生の中で永遠に心に残るような経験で、私と同じように皆さんもキャリアの最初の一歩として覚えていると思います。
 
また、キャリアの最初の数年が、将来の収入にも大きな影響を与えます。社会学者のリンゼイ・オーウェン(英語のみ)は、「最初の仕事が、二回目の仕事を決め、さらには三回目の仕事を決めます。キャリアをどのように始めるかが非常に重要なのです」と話しています。
 
しかし、残念なことに、新型コロナウイルスの影響によって多くの若者たちがこのような貴重な経験を奪われてしまっているのです。報道によれば(英語のみ)、失業や一時解雇を余儀なくされている人たちの多くが、25歳以下の若者だそうです。他にも、多くの人たちが内定を保留されたり、取り消されたりしています。
 
若者の失業率は、新型コロナウイルス感染拡大の前(英語のみ)から深刻な状況にあります。実際に、2019年末には、若者の失業率が2008年の金融危機のときより高くなりました。しかし、現在の状況を見ると事態はさらに深刻化しています。つまり、過去の経験からも分かるように、自然災害や健康危機は、すでに社会から取り残されている人たちをさらに追い詰めているのです。
 
これまでに発表された調査を紹介します:
  • コンサルティング会社のデロイトの調査(英語のみ)によると、Z世代の30%、ミレニアル世代の4分の1以上(25~30歳)が、仕事を失ったり、契約社員への転換や無給休暇の取得を余儀なくされました。また、2021年の4月下旬から5月上旬にかけて、世界のミレニアル世代の5人に1人が失業していました。
  • スカイの報道(英語のみ)によると、就職活動中の新卒の3分の2が、応募を一時的にやめたり、完全に取りやめました。
  • 国際労働機関(ILO)のガイ・ライダー事務局長(英語のみ)によると、若者の10%は教育やトレーニングを修了できるか疑問に思っており、50%が最低でも遅れるのではないかと考えているそうです。さらに、彼は「スキル習得のためのパイプラインの中断は、長期的に深刻な影響を与えるだろう」と述べています。
残念ながら、実際のところ「ロックダウン世代」や「ロストジェネレーション」と呼ばれるこの世代のキャリアや人生は、新型コロナウイルスの感染拡大によって大きな影響を受けています。それはなぜなのか?答えはシンプルです(英語のみ)。それは、彼らがインターネットを通じて単発の仕事をする「ギグエコノミー」やコロナ禍の影響を最も受けやすい産業(旅行業や接客業、小売業など)で働いている人が多いからです。また、そのような人たちは、業務の自動化によっても仕事を失う可能性があります。
 
心配なのは、コロナ禍の影響によって、今後数年間、彼らが不利な立場に立たされるのではないかということです。ファイナンシャルタイムズ(英語のみ)によると、不況時に卒業した学生は、5年後の収入が少なくなるということが分かりました。また、CBSの報道では、大不況のときにミレニアル世代に起こったことを調べたところ、何年にもわたって影響を受け、場合によっては、安定した経済状況のときに卒業していれば得られたはずの収入を取り戻すのに10年もかかったそうです。
 
ミレニアル世代、特に2008年の世界金融危機のときに卒業した若者たち(英語のみ)も苦境に立たされています。調査によると、彼らの状況は金融危機から10年後にようやく好転したものの、現在新型コロナウイルスに引き起こされた景気不況によって再び大きなダメージを受けています。彼らから見れば、これまでのキャリアはジェットコースターのようだったと言えるかもしれません。それは、ワシントンポスト(英語のみ)が「米国の歴史上、最も不運な世代」と呼んでいるほどです。
 
だからこそ、現在影響を受けているのが、社会に出始めた人たちだけと考えるのは間違っていると思います。この問題は幅広い人々に影響を与えているのです。今、私たちが一丸となって何かをしなければ、全世代が癒えることのない大きな傷を残すことになるでしょう。
 

若者の失業問題を解決するために経営者がより大きな役割を果たすべき

この世代の若者たちは大きな発信力を持っています。彼らは、抗議活動や選挙投票など、世界をより良くしたいという情熱や意見、勇気、アイデアを持っており、これからの未来を担う存在です。
 
もちろん、若者たちは、自分たち自身でこの問題を解決できる能力を持っていると思います。しかし、彼らだけではできないこともあります。私たちが、彼らの声に耳を傾け、サポートする必要があるのです。また、各国の政府が、雇用創出や雇用保障制度、トレーニングインセンティブ、実習プログラム、一定期間企業に在籍すると手当がもらえるリテンションボーナスなど、若者のキャリアを守るために様々な支援を行っていることは心強いことです。しかし、「ロックダウン世代」をサポートするためには、経営者の役割も非常に重要であることを忘れてはいけません。
 
では、ビジネスリーダーとして私たちができることは何でしょうか?もちろん、経済的に可能であれば、経営者は、リモートで行う必要があったとしても新卒とインターンの採用を継続すべきです。PwCなどの企業(英語のみ)が新卒採用を100%実施する予定であるのに対して、デロイトなど他の企業は採用開始日の遅延を発表しています。そうなると、経営者にとって若者たちがリモートでもしっかりと働くことができるようにすることが重要であるのは言うまでもありません。彼らはデジタルに精通している世代ではありますが、調査によると、Z世代と在職中のミレニアル世代の45%(英語のみ)は、コロナ禍の前にリモートワークを経験したことがないと答えています。だからこそ、彼らがすぐに仕事を始められるようにサポートしなければなりません。また、これから初めて社会に出て仕事を経験する新入社員に対しては、従来のプロセスとは異なるアプローチが必要であることも忘れないようにしてください。
 
経営者は、広い視点を持って採用活動をする必要があります。求職者に対してチェックリストを作成したり、事前に必須条件を設定したりすることから脱却していかなければなりません。どの大学を出ているのか、もしくは大学に行ったかどうかも重要ではありません。本当に重要なのは、その人のポテンシャルです。だからこそ、実習プログラムや職業訓練を修了した求職者にも目を向けるべきだと考えています。経済協力開発機構(OECD)は(英語のみ)、「質の高い職業訓練を行うことは、不況時も含め、就職や今後のキャリアにとって効果的」と説明しています。そして、成績を評価する際には、試験スケジュールの遅延などを理由に教師が作成した推定値であるかもしれないということも忘れてはいけません。彼らの本当の姿を理解するために、ボランティア活動や家族の世話、またはDIYに挑戦したなど、コロナ禍で積極的に取り組んだことを聞いてみるのも良いでしょう。そうすることで、彼らの人間性やポテンシャルを垣間見ることができます。
 
次に、社会人経験の少ない若者たちの場合、履歴書を見るときは、職を転々としていることが必ずしもマイナスではないということを意識しなければなりません。平均寿命は延びていますから(英語のみ)、ほとんどの人が70代、80代まで働くことができます。そうなると、これまでより転職をするようになるのは当然のことだと思います。だからこそ、長期勤続の重要性など長年の思い込みで判断しないよう注意する必要があります。
 

「若者のために未来を創れるとは限らない。しかし、未来のために若者を創ることはできる」

フランクリン・D・ルーズベルトの言葉に、「若者のために未来を創れるとは限らない。しかし、未来のために若者を創ることはできる」というものがあります。これは「World Youth Skills Day 2020(英語のみ)」の際に引用されたもので、特に今心に響く言葉だと思います。
 
もちろん、世代を問わず従業員のスキル開発に投資することは、新しい働き方が定着してきた社会の中で企業が成功するために重要です。しかし、最初に取り組まなければならないことは、正式な教育で教えられているスキルと、経営者や企業が実際に必要としているスキルとのギャップを解消することだと考えています。2016年のブログで(英語のみ)「毎年、新卒採用の時期になると、ヘイズのクライアントから学生が仕事に必要なスキルを持ち合わせているのか心配する声をよく聞きます」と書きました。残念なことに、このような状況は現在も変わっていないと思います。「ソーシャルディスタンス」が求められる社会状況とはいえ、経営者が教育者と協力をして、実際の仕事や業務に基づいた学習や学位取得のための実習制度の導入を目指すべきです。
 
また、リーダーとして私たちは、学生たちにメンターシッププログラムや業界セミナー、さらにはSNSを通じて実践的なキャリアアドバイスを提供していく必要があります。コロナ禍の影響で教育現場が混乱して学習が遅れてしまったり、仕事のあり方が急速に変化しているからです。このブログを読んでいる人の中には、善意からだったとはいえ、主な教育機関の進路相談サービスの犠牲になったという人もいるのではないでしょうか。もちろん、役に立つ点もありますが、このような進路相談サービスによく欠けているのが、ビジネスの声です。実際にOECD(英語のみ)が発表したレポートによると、若者のキャリアに対する期待は非現実的で情報が不足しているそうです。また、OECDはこのようにも述べています。「経済の混乱によって、労働市場の需要と、若者が求めるものや学歴との間にミスマッチが増えるでしょう」。リーダーである私たちは、毎日ビジネスの現場を見ています。だからこそ、学生一人ひとりが求められるスキルについて十分に理解し、実際の仕事でどのように役に立つのか考えるために、リーダーが自分の考え方や知識を伝えていかなければならないのです。
 

社会的な目標を通して若者のキャリアを支援する

ハーバードビジネススクールの上級講師であるマーク・R・クラマー(英語のみ)は、「多くの大企業が社会的目的や価値観を持ち、従業員やステークホルダーを大切にしていると語っていますが、今こそその約束を果たすときなのです」と述べています。また、「リーダーが企業の価値観を守るために短期的な利益を犠牲にするような決断をしたときに初めて、従業員はそれが本当のことだと信じることができます」とも説明しています。
 
今年の1月に、私はリーダーが企業の目的を定義し、実際にそれに基づいて行動していくことが重要であるとブログで書きました。コロナ禍によって企業価値やプロジェクトが失われている今こそ、経営陣が正しい行動をして株主利益を再評価し、若者の未来のために適切な投資を行う必要があるのではないでしょうか。
 
これは、ヘイズでも力を入れて取り組んでいることです。「機会を創出し、生活を向上させる」。このヘイズの目的は、先ほど述べたようなキャリアや職場に関するアドバイスの提供、スキルアップやリスキルの支援など、将来の世代をサポートするという行動に合致するものです。社会と企業の間の共通認識が変化していることは紛れもない事実であり、この動きは新型コロナウイルスによって加速しています。あなたの企業はどのように対応していきますか?
 
この世代は強い意志を持っており、世界の中で大きな役割を果たしていきたいと考えています。デロイトが「Global Millennial Survey(英語のみ)」で述べているように、「彼らはポストコロナの社会はこれまでより良くなるだろうと考えており、それを現実にするだけの粘り強さを持っています」。確かに、彼らは自分たちの未来のためにできることをしようと考えています。しかし、彼らは窮地に立たされています。今の労働市場は厳しく、経験豊富な人でさえ乗り越えることが困難な状況です。
 
これはすべてのリーダーたちに向けた言葉です。もちろん、現在働いている従業員のニーズは重要ですが、若者たちのことも忘れてはいけません。彼らは、今まで以上に私たちのサポートを必要としています。彼らの存在は未来であり、その未来ができるだけ明るいものになるように、私たちはできる限りのことをしなければなりません。
 
 
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