科学における女性と女児の国際デー
東京大学 大学院総合文化研究科 四本裕子教授へインタビュー

 

「科学は楽しい……この分野に来てみない?」 – 東京大学 大学院総合文化研究科 四本裕子教授へ科学の世界の魅力と同分野におけるジェンダーギャップについてお話を伺いました。

―シェイク・バロー (ヘイズ・ジャパン シニアマネージャー)
 
2月11日は「科学における女性と女児の国際デー」です。
2023 年 2 月 2 日、光栄にも東京大学の四本裕子教授にインタビューする機会を得ました。 2018年度、日本学術振興会日本学術振興会賞を受賞された四本さんは、東京大学に四本研究室という自身の研究室をもっています。 2012 年 6 月に認知行動科学の新しい研究室として設立され、日常生活においてどのように情報を処理するかを研究しています。
四本さんは、日本と米国で 20 年以上にわたって科学に携わってきました。大学院に進学し、博士号を取得したのは、家族のなかで彼女が初めてとのこと。四本さんは科学に情熱を傾けており、それを知的自由、充足感、エンパワーメントと表現しています。科学分野で長年を過ごし、多くの成果を上げた今でも、自身の仕事を非常にエキサイティングだと感じています。科学の道に興味を抱いている若者たちの未来は今より明るいと彼女は語っています。 「科学は楽しい……この分野に来てみない?」彼女はそう誘います。


まずは自己紹介をお願いできますか?

四本裕子と申します。東京大学の生命科学部で 教授を務めています。神経科学、特に知覚の研究を行ってきました。目や耳、そしてそれらすべての接触から得た情報を脳がどのように処理するかを研究してきました。
私は長年この業界で働いていて、永遠のように感じたりもしますが、20 ~25 年ぐらいです。学士号は心理学で取得しました。その後、東京大学の大学院に 2 年間在籍し、アメリカに移りました。4 年間のプログラムに参加し、人間の視覚記憶の数学的モデルに関する論文を書き、心理学の博士号を取得しました。その後さらに5年間、ボストン大学、マス総合病院、ハーバードメディカルスクールなどのボストン地域で働き、人間の脳をスキャンして、学習する時や眠っている間に脳がどのように変化するかを研究していました。約10年アメリカに住んだ後、東京に戻ってきて、それ以来東京大学で働いています。


いつ頃から科学に興味を持ち始めたのですか?

最初のきっかけは覚えていませんが、物心ついた頃から科学に興味がありました。中学校と高校では、生物学が好きな教科でした。そして、東京大学の学生として研究を始めました。最も刺激的だったのは、私が今研究していること、つまり視覚やものの見方など、自分自身の日常生活と非常に密接に結びついていることだったと思います。
歩き回りながら何かものを見て、それが何なのかを理解しますよね。これは、光が目に入ってきて網膜とニューロンに当たり、脳に伝わり、その情報は脳のある部分で処理される必要があってそこへ行き着く仕組みになっています。つまり、このような日常での経験すべてが、研究の一部になる可能性があります。それが最もエキサイティングな部分でしたし、今でも非常にエキサイティングだと感じている部分です。


幼い頃に科学への興味をかきたてるものは何かありましたか?

私は日本の南に位置する宮崎県の小さな小さな町の出身です。学士号を取得して大学院に進学したのは、家族のなかで私が初めてです。家族は銀行や金融に興味をもっていましたが、科学に関心を抱いたり興味を示したりしたのも、大学院に行ったのも、私だけです。振り返ってよかったと思うことは、誰も私を止めなかったことです。ロールモデルはいませんでしたが、そういう意味ではなんの障害もありませんでした。
 

女性が科学分野に参入する際の最大の課題は何だと思いますか? 先ほど「誰も私を止めなかった」とおっしゃいましたが、なぜそのようにおっしゃったのでしょう?

日本の文化、特に郊外や、東京のような大都市ではない田舎では、(科学の道へ進もうとするのを止めることは) よくあることだと思います。
私の年齢や世代、または上の世代の人々のなかには、女性は男性ほど多くの教育を必要としないと信じている人もいれば、高等教育は女性のためのものではないと信じている人もいます。そのような環境で育った人にとっては、学問や科学の分野でビジョンを叶えることは非常に難しいことであり、それが最も困難なチャレンジとなります。幸いなことに、私にはそのような困難はありませんでしたが、若い世代でそういった類の困難に直面している人もいまだに多いと感じます。


現在 STEM で働く女性は、全体のわずか 16%のみです 。女性が過小評価されていることについて、どのようにお考えですか?

明確な要因が数多くありますが、そのうちの 1 つは、STEM 分野でのキャリアの探求をなんとなく思いとどまらせるような力が働いていることです。たとえば小学校でも中学校でも、教師が学生に「女性は数学が苦手だ」と話す状況が見られます。学校でそのように言われてしまうと、もうその段階で、理系でのその先のキャリアをイメージすることは非常に難しくなります。若い世代に対してそのような環境にしてしまった責任は、我々世代にもあると思います。
私たちはSTEM 分野の女性が占める割合が わずか16% にすぎないことには気づいています。これは大きな問題であり、改善する必要があります。現在の若者世代には、以前よりもっと多くの機会が開かれています。我々は16%という悲壮な数字に今気づいており、増やさなければいけないと認識しているため、若者世代の未来はより明るいと思えています。
 

日本でも世界でも、女性と女児は依然として著しく過小評価されているのが現状です。今日、世界の STEM 分野で働く女性は 27% にすぎず、日本では わずか16% にとどまっています。同分野は依然として、男性優位なのです。

 

科学の魅力は何だと思いますか?どんなところがエキサイティングですか?

知的な側面に関して自由なところだと思います。心に大きな自由を感じます。面白いと思ったことは何でも勉強できます。私は論文を読み、「どうしてこれが起こっているのか?なぜなのか?」と考え、その仮説を検証するための実験をいくつか思いつき、実際に行うことができます。論文を書き、その質問に対する答えを知っている世界で最初の人になれるのです。
これは非常にエキサイティングで、決して飽きることはありません。なぜなら、勉強すべき新しい対象をいつでも見つけることができ、世界中の誰も答えを知らない質問を知っていることになり、それを解く鍵を知っている最初の人になれるからです。まさに興奮そのものです。
また、仕事としても、多くの自由をもっています。たとえば私は9:00 から 5:00 まで働いているわけではありません。起きた時に体調がすぐれず仕事をしたくないと思ったら、その日は仕事をしないこともあります。その代わり、本を読んで科学について考えます。もしくは、元気がみなぎる日には、20時間連続で働くこともあります。自分でスケジュールを立てて、やりたいことをやる。それはとても素晴らしいことです。仕事において、そのような余裕をもてる人は多くないのではないかと思います。


25年以上科学に携わってきたなかで、毎日のモチベーションは何ですか?

私は東京大学に自分の研究室をもっているので、優秀な学生たちが私をやる気にさせてくれます。彼らは私のモチベーションの源です。彼らは素晴らしく、勤勉でもあります。私は学生1人1人と 10 の異なるプロジェクトをもっています。彼らが実験を行ってその結果を報告し、私はそれについて一緒にミーティングを行って、次は何をするかを一緒に計画します。素晴らしい学生たちとの活動は、モチベーションの大きな源となっています。
 

より多くの女性が科学に関心をもつようにするために、今日私たちができることは何だと思いますか?

女性科学者のために、女性が利用できるポジションを増やすことです。現在、ポジションは限られており、非常に競争が激しい状態です。たとえば、大学で求人が 1 つがあったとして、この たった1つのポジションに何百人もの人々が応募します。もし今、私に権限があれば、女性科学者だけが適用できるポジションをたくさん設けます。女性科学者がアクセスできる環境をつくりさえすれば、科学分野でのキャリアをそこから追求することができるからです。
 

特に女性に関連したものでなくとも、科学全般でどのような変化が起こっていると思いますか?今後 10 年間で科学にどのような変化が起こるでしょうか?

情報や情報量は、とてつもなく変化しています。学生時代、自分の研究に直接関係のある論文を週に数本読んでいましたが、それだけでこの分野のすべてを知っているような感覚を得られたものでした。しかし現在では、おびただしい数の新しい論文が発表されています。 1 人で処理することはおそらく不可能です。今ではその情報量に合わせて、研究スタイルも変えていかなければなりません。
そしてもちろん、将来的には、人工知能ChatGPTも研究方法を変えるでしょう。 10年後はどうなるかわかりませんが、今よりもっと情報量が増えていくと思います。どうにかして、その不可能な量の情報を処理する方法を考え出さなければなりません。


科学で最も魅力的になっていく分野は何だと思いますか?

それは難しい質問ですね。あまり多くの人が関心を示していない分野だとしてもなぜか興味深い、そのような分野が人々を惹きつけていくのではないでしょうか。


科学者には生まれつきの才能が必要でしょうか、それとも後天的に身に着けられるものですか? 

生まれつきと後天的に身に着けられるものと、両方の要素があるとデータは示唆しています。後天的に目指せると言いたいところですが、遺伝的要因も無視できません.
科学者としてのキャリアを探求する場合に役立つ、生まれながらの才能や特性を持っている人もいますが、その DNA をもっているだけでは十分ではありません。良い科学を行うには、良い環境とハードワーク(努力)が必要です。したがって、答えは両方の組み合わせとなるわけですが、私は環境要因にもっと重みを置いています。


科学分野で成功するために必要なハードスキルを 3つ挙げるとしたら、何ですか?

数学: すべてがデータに基づいている必要があり、データを処理する時にはデータを解釈するために数学に関する理解が必要です。
ライティング: ライティングスキルは重要です。発見したものについて書く必要があるからです。
プログラミング:科学の分野ではプログラミングのスキルが必要だからです。
 

科学分野で成功するために必要な ソフトスキルを3つ挙げるとしたら、何ですか?

レジリエンス(適応力、しなやかさ)と持続性を挙げたいです。1つの物事に集中する必要があるからです。
そして 3 つめとして、これはソフトスキルに思えないかもしれませんが、体力を挙げます。この分野を歩き続けるためには体力が必要だからです。
なぜかというと、たとえば、朝から晩まで実験を行うこともありますし、「睡眠研究」を行った時は18:00に出社して、睡眠中の脳の動きを朝まで観察・測定したこともあります。このような意味で、精神力と体力が必要です。
 

科学の道を考えているすべての子どものために、何かアドバイスはありますか?

「あなたにはできない」と言う人の言うことを聞かないでください。あとは付け加えるとしたら、海外に行き、世界を見てください、ということですね。
 

 今日話に出なかったことで、言っておくべきことは何かありますか?

すべて話せたと思います。科学は楽しいです。ですから、もし興味をもっているのであれば、ぜひキャリアを追求してください。科学は素晴らしいです。ぜひこの分野に来てください。
 
 
四本裕子教授
東京大学 大学院総合文化研究科 教授 
東京大学文学部卒業

 
 
 
 
 
シェイク バロー
ヘイズ・ジャパン シニアマネージャー
Chair & Japan representative
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