従業員の昇給相談を円滑に進める最善策
CHRIS DOTTIE MBE ヘイズ・スペイン・マネージング・ディレクター
従業員からの昇給要求に対処することは、組織の管理者にとって最も難しい対話の一つです。これらの要求は、適切に対応しないと、従業員との対立や人材の流出につながる可能性があります。
しかし、昇給要求を厄介なものと見なすのではなく、優秀な従業員に適切な報酬を与え、引き留めるチャンスだと捉えることが重要です。従業員が外部の機会に目を向ける前にあなたに相談してきたということは、会社への忠誠心やエンゲージメントの高さを示しています。もし会社の業績が順調であれば、彼らの努力を評価する絶好の機会になるでしょう。
意思決定への影響
報酬に関する決定権がどの程度あるかは、企業によって異なります。いくつかの企業では、給与体系が非常に厳格に管理されており、従業員の給与を段階的に調整するのは、具体的かつ測定可能な目標を達成した場合に限られます。一方で、通常は規模の小さい企業では、給与交渉のシステムがより柔軟である場合があります。これは、企業の規模に起因し、従業員の価値(理想的には企業全体の価値も)が絶えず進化しているためです。
企業の規模や成功の度合いに関わらず、給与交渉を求められた際に従うべき共通の実践があります。以下に、そのうちの6つを時系列で紹介します。
1. 考える時間を確保する
従業員が昇給を要求する際には、自己評価フォームの記入を求めるシステムを導入しましょう。これにより、従業員は自分の価値を深く考え、正当化することが求められ、あなた自身も対応する時間を確保できます。このシステムにより、不意の要求を避け、場当たり的な対応を減らすことが可能です。
このようなデリケートな状況では、慎重に考慮することが求められます。急がず、なぜ従業員が昇給を求めているのか、彼らが本当にそれに値すると信じているのか、それとも試しに要求しているだけなのかを考える時間を持ちましょう。
2. 誠実であることが最善の策
昇給を求めることは、従業員にとってかなりの緊張が伴うものです。その勇気を尊重し、誠実に対応することが大切です。正直であることは管理哲学の基本ですが、給与交渉においては従業員の業績評価や昇給の見通しについてはっきりと示すことが重要です。従業員に対して正直であることは、彼らも対しても同様に裏表の無い対話を行うことを促します。このオープンさを活用して、従業員に対し「もしあなたがマネージャーなら、自分を昇給させますか?」と尋ねてみましょう。彼らの回答にためらいがあるなら、あなたもその昇給交渉に対して慎重になるべきです。
3. 真摯に受け止める
従業員の要求を真摯に受け止めることが重要です。前述のように、彼らはおそらく勇気を振り絞ってあなたにアプローチしてきたので、その努力を尊重しましょう。要求を避けたり、軽視したりしてはいけません。自己評価フォームを記入させた上で、正式なミーティングを設定し、提案を話し合い、レビューしましょう。
さらに、自分の評価を裏付けるために、十分な調査を行うことが求められます。これは、彼らの個々の業績についてだけでなく、その職位における平均的な給与についても言えることです。競合他社と同じ水準で支払っているのでしょうか?ヘイズアジア給与ガイドは、この調査に最適なツールです。もし市場の上限に近い給与を支払っていると分かれば、昇給の要求を拒否するか、次のステップに進むことを考慮すべきです。
4. トップパフォーマーに報いる
その従業員があなたのチームにとって欠かせない存在だと感じるなら、昇給という形で報酬を与えることは非常に重要です。昇給を拒否することは、従業員を大きく落胆させる可能性があり、その痛みを次のポイントで示すような提案で軽減しようとしたとしても、効果は薄いかもしれません。
このブログの冒頭で述べたように、従業員に昇給を許可することは彼らにとって非常に力強いものとなります。従業員のモチベーションを維持するために良い方法であり、ビジネス内で彼らの成長の道筋が明確に示されていることを示すことができます。もし本当に難しい決断をしなければならない場合は、以下の2つの質問を自問してみてください。
- 会社はこの従業員の給与を引き上げる余裕があるか?
- 会社はこの従業員を失う余裕があるか?
昇給によって予算が若干圧迫されることがあるかもしれませんが、新しい従業員を採用し、面接し、育成するコストはその数倍になりえます。それに、新しい従業員が前任者と同じレベルの専門知識や能力を持つ保証はありません。加えてあなたの時間という貴重なリソースを無駄にしないためにも慎重に考慮しましょう。
5. 現金以外の代替案を考える
もし組織が昇給を支払う余裕がない、または昇給を認めない方針である場合、他の形で報酬を提供して妥協点を見つけましょう。例えば、従業員に週に1回の在宅勤務を許可する、ビジネス内での影響力や裁量を増やす、重要な顧客との接点を増やす、出張の機会を提供するなどが考えられます。
従業員が昇給を完全に正当化するほどの貢献をしている場合でも、昇給の要求をしたタイミングが不適切だった可能性もあります。そのような状況では、金銭的報酬以外の福利厚生をリストアップしておき、従業員を引き留めるために活用することが有効です。
6. パフォーマンスの進展を把握する
年次の業績評価だけではもはや十分ではありません。これは、ヘイズ・ジャーナルの記事「業績評価の見直し」で詳述されています。マネージャーとして、あなたはチームの業績と成長を管理する責任がありますが、昇給の要求がうまくいかなかった場合は、その従業員の進展を追うために一層の努力が必要です。
昇給の要求が却下された後、もしその従業員がまだ会社に残っているのであれば、最終的に昇給を得るための道筋を描いておくべきです。このチームメンバーには、自身の成長に投資していることを伝えるため、定期的な評価を行いましょう。
従業員のマネジメント
昇給の要求に対処する鍵は公平さです。各従業員の価値を、その業績の質と役職自体の価値、市場での相場の観点から評価しましょう。プロセス全体で理由をきちんと説明することで、その結果に関わらず、従業員が満足するチームメンバーを維持するための最良の機会を得ることができます。
また、昇給を求める従業員にのみ昇給を与えるべきではないことも重要です。昇給のプロセスを「モグラたたき」のように捉えるべきではありません。要求が来るたびにその場しのぎで対処し、面倒な問題を片付ける方法として扱うのではなく、全ての従業員の価値を常に評価し、査定することを優先しましょう。従業員が昇給を求めるのは、最終的な選択肢であるべきです。結局、サプライズ昇給こそが、最も強いモチベーションとなるのです。
著者
CHRIS DOTTIE MBE
リバプール出身。1996年にヘイズに入社。イギリスとポルトガルでの勤務経験を経て、2002年にスペインに移り、現在はヘイズグループのスペイン代表取締役を務めています。スペイン国内のマドリード、バルセロナ、バレンシア、ビルバオ、セビリアにオフィスを構えています。
アストン大学で国際ビジネスと現代語を学び、その後、アンジェの商業科学高等学校での1年間の学びを経て、アシュリッジ・ビジネススクールおよびIMDでエグゼクティブ教育を修了しました。仕事の世界や国際貿易については、よくメディアで発言しており、業界の専門家としても広く知られています。
クリスは、過去4年間にわたりスペインの英国商業会議所の会長を務め、現在は英国商業会議所の取締役会の非執行取締役としても活動しています。また、2020年には、英国ビジネスへの貢献が評価され、New Year’s Honours ListでMBE(大英帝国勲章)を授与されました。