インサイドストーリー:日本エンタープライズ・テクノロジーの現状(2020年)

2019年、Software-as-a-Service(SaaS)業界は、ソフトウェアをより手軽でアクセスしやすいものにすると同時に、データとリアルタイム通信を通じた効果的な手段としてクラウドベースのソリューションを提供することで、多大な価値を企業にもたらしました。調査会社Orbisの「Global Enterprise Software market size, share, trends and forecast to 2022」レポートによると、世界のエンタープライズ・ソフトウェア市場の規模は2022年には5,000憶ドルを超えることが予想され、アジアにおいて、日本はこの分野を牽引する国の1つとなっています。富士経済グループの予測によると、2021年には日本のソフトウェア市場規模は190憶ドルに達し、内SaaSが60憶ドルと、トップを占めることが予想されます。

現在、日本は同セクターのグローバルリーダーとなる可能性を有しています。その背景には、人口減少に伴い、テクノロジー業界での労働力の生産性と効率性を向上させる必要に迫られている現状があります。このようなニーズは、製造、食糧生産、建設、物流、医療、金融といった労働集約型の業界で特に高まることが予想されます。加えて、日本の5Gネットワーク変革が2020年中旬に完了する予定で、企業はデジタルプラットフォームに対する消費者の期待に応えるために、より一層直観的なデジタル体験を可能にする技術開発を迫られています。これらの要素は、世界経済の減速によりビジネスやデジタルの変革が避けられないという背景を受けたものであり、結果的に日本のエンタープライズ・テクノロジー(ET)の安定した展望につながっています。

市場概観:ET人材の切迫したニーズ

明るい見通しにもかかわらず、継続的な人材不足に加え、業界で必要とされるスキルが急速に変化していることにより、同セクターでは人材不足が深刻化しています。2020年東京オリンピックの開催が間近に迫る中、同大会によって日本の変革が促進されるとの期待が高まっており、このような外的要因によって人材不足にさらに拍車がかかる結果となっています。「歴史上最も革新的な」大会にすることを目指し、ロボット、燃料電池自動運転車、人工流星群などの計画が進められる中、同オリンピックについて安倍晋三首相は、「日本全体を活性化」させるものであると述べています。ヘイズ・ジャパンでビジネスマネージャーを務める高功は次のように述べています。「日本はこれまでよりもはるかにオープンな国へと変わろうとしています。間近に迫ったオリンピックに後押しされる形で、政府はあらゆる業界においてより国際的な働き方を推進しています。ITの視点からすると、これはレガシーシステムを直ちに更新する必要があることを意味しています。」

「ビジネスリーダーは、自社チームが使用するソリューションの所有数を増やすことに固執し、事業価値を生み出す上で欠かせないものとしてテクノロジーをとらえるようになっていくことでしょう。ITリーダーは、そのような企業にとって信頼できるアドバイザーとなる必要があります」
出典:State of Enterprise Software Report 2019, IRBS

IRBSが「State of Enterprise Software Report 2019」の中で発表した最新の調査結果によると、2020年にはSaaSビジネスソフトウェア革命が本格化することが予想されます。ビジネスリーダー達は、自社チームが使用するソリューションの所有数を増やすことに固執し、事業価値を生み出す上で欠かせないものとしてテクノロジーをとらえるようになっていくことでしょう。ITリーダーは、そのような企業にとって信頼できるアドバイザーとなる必要があります。従来のIT職の性質の変化について、高は次のように述べています。「新プロジェクトやアップグレードに着手し、そのためのアドバイスを必要とする組織が増える中、コンサルティング会社やITベンダー企業は事業の拡張を進めています。企業がデジタル化などに着手する場合、ITの視点を持ち、新たなテクノロジーイニシアティブを統率できるアドバイザーが求められます」

その一方で、日本のIT市場は依然として人材が不足しており、ITベースのアドバイザリースキルを有する人材は非常に希少な存在です。事態をさらに複雑化しているのが、バイリンガルや、場合によってはトリリンガル(日本語、英語、標準中国語)人材に対する需要です。これによって、中国や韓国といった海外の人材の雇用を検討する日本企業が増えています。「多くの企業が海外からの人材の雇用を検討しているものの、このような考え方はまだ新しいものであり、日本の組織はこれに慣れる必要があります。」と高は述べています。

人材不足は、人材採用の柔軟な解決策や、派遣/契約の専門職の雇用およびアウトソーシングの利用の増加にもつながっています。「企業はITベンダーやソーシングベンダーから多くの助言を必要としており、徐々に人材のアウトソーシングを始めています。インハウスのIT職務においては、特定のITソフトウェアやシステムの導入後、その役割はQAやサポートに限定されます。したがって、このような職務では、契約社員やITベンダーのアウトソーシングを利用することが、より適切な解決策であるといえます」と高は述べています。

求められるスキル:PMPやSAPの資格を持つERPプロフェッショナル

インハウスとベンダーの双方で最も多く求められるのが、ジュニアから中堅レベルのERP人材です。SAPの知識が最も重宝される一方で、MicrosoftやOracleなど他のERPソフトウェアの知識のある人材の需要も増えています。ソフトスキルの重要度も高まっており、考え方や文化の適合が技術的なスキルと同様に重要視されています。高は次のように説明しています。「前向きな考え方ができる求職者が求められています。日本の組織文化はより消極的であるとされ、上司にはっきりと物を言うことを恐れる社員もいます。今、それが変わりつつあり、よりオープンな物の見方が求められるようになってきています」。具体的に言うと、SAPビジネスアナリスト、SAPアソシエイトコンサルタント、SAPジュニアプロジェクトマネージャー、プロジェクトコーディネーターなどの職務に需要があります。

 

「前向きな考え方ができる求職者が求められています。日本の組織文化はより消極的であるとされていましたが、今、それが変わりつつあります」
- ヘイズ・ジャパン ビジネスマネージャー、高功

シニアレベルの人材の雇用でも同様に、人的管理およびプロジェクト管理の幅広いスキルと共に、ソフトスキルの重要度が高まっています。日本がよりオープンな国へと成長を続け、目前に迫ったグローバルな多文化交流への準備を整える中、多文化チームのマネージメント経験が優先順位のトップとなっています。「近い将来、多文化との交流が増えることが予想され、上級管理職にはさまざまな国籍に精通し、異なる文化に無理なく対応できる能力が求められます」と高は説明します。

上級職においてはインターナルITディレクターやITディレクターに需要がある一方で、ITベンダーやコンサルティング会社ではSAPプロジェクトを担当するITシニアマネージャーやITディレクターが求められています。市場がSAPへと傾く中、現在、Microsoft Dynamicsなど他のERPソフトウェアの知識が不足しています。条件を満たす求職者は充実した賃金パッケージ/福利厚生を期待でき、特にSAPの知識を持つ求職者は有利です。PMPとSAPの両方の資格を有する専門職の需要はとりわけ高くなっています。

プロモーション型の採用活動が増加

人材不足を背景に、認知度を高め、人材を惹きつけるために、プロモーション型の採用活動を行う企業が増えています。自社の製品やシステムを持つ大手テクノロジー企業が大型の公開アウトリーチイベントを開催することは、必須のこととなっています。これらのイベントは、潜在的な従業員と顧客の両方に向けて、企業および製品を宣伝する目的で行われます。高は次のような例を挙げています。「最近SAPは自社イベントを開催し、SAPの知識のない求職者に無料のトレーニングを提供しました。このイベントは、SAPの仕組みを紹介し、この技術に不慣れな人にトライアルの場を設ける目的で行われました」
このほか、ワークライフバランスの重要性への認識が高まる中、企業文化の宣伝も優先事項となってきています。「今日の求職者は企業文化について非常に関心が高く、ワークライフバランスと福利厚生についても注目しています。このような動きは数年前から増えています」と高は説明します。

競争に勝ちたいと考えている組織に対し、高は面接プロセスを見直し、求職者にも質問をさせるようにするようにと提言します。「一次面接をよりバランスの取れたものにする必要があります。なぜなら、これらの面接は求職者と企業側が互いのことを理解する機会となるからです。求職者にとって、Webサイトが唯一の情報源であり、企業を知るチャンスがほとんどないというケースはめずらしくありません。こうした状況は、企業側にとって不利益になる場合もあります。求職者にもっと質問をさせることで、面接担当者と企業の両方をよく知ってもらうことが可能になります」

今後の展望として、高はこの先5年でアウトソーシング企業がさらに成長すると予想しています。「企業は自社のIT部門を強化し、安定化させることが不可欠です」