転職の面接で「自分らしく」が大切な理由とは

 

「自分らしくしていればいいよ」。大学の入学式や初対面の人ばかりのパーティに臨むときは、こうしたアドバイスがよく効くのかもしれません。しかし、面接ではどうでしょうか。皆さんは本当にありのままの自分でいることができますか?
 
これまで面接のために自分の人格や性格を作り上げてしまったことはありませんか。また、本来は活発で外交的、または慎重で内向的な性格なのに、その性格を悟られまいと振舞ったことはないでしょうか。求職者は、面接官の性格や、応募先企業の社風に合せて無意識にそんな行動を取るのかもしれません。その気持ちは理解できますが、私はあえて「自分らしくあれ」とアドバイスをしたいと思います。
 
ただし、「自分らしさ」には、常にプロフェッショナルであることとのバランスが必要です。私が伝えたいのは、面接に「友人の家に遊びにいくときと同じ気持ちで臨む」ことでも、TPOもわきまえずに思うままに振舞う、ということでもありません。
 
これを前提に、なぜ面接で自分らしく振る舞うことが大切なのかを説明したいと思います。
 

面接官が知りたいのは、あなた本来の姿

最も大きな理由は、あなたが自分らしさを出せなければ、面接本来の意義が失われるからです。面接は、あなたが本当にその企業や一緒に働く仲間たちにマッチしているのかを検討する機会です。社風や企業の文化は、さまざまな要因で作られます。そこで働く従業員や従業員同士の関係・働き方にも影響されますし、企業の課題に向き合う姿勢や、成功を評価する方針、そして、その企業の「コアバリュー(主な価値観)」も重要な要素です。特に、コアバリューについては、従業員が働きながら自然に身に着けることが期待されます。このため、ある調査では、勤務先の文化に適応できない人材は、入社後も幸福感を感じることがなかなかできず、最終的にそれが理由で退職する頻度が高いことが明らかにされています。
 
企業文化とは、人間でいう「人格」のようなものです。相性が合わない人と長時間一緒に過ごしたいと思う人は、なかなかいないでしょう。企業文化が合わない企業で働く、というのはそういうことなのです。
 
また、ベストコンディションのときでも、異なる人格を演じるのは精神を消耗させます。面接では、自分の強みやスキルのアピールに力を入れながら、その転職が本当に自分にとってベストな選択なのかを冷静に見極めることが大切です。では、次に面接中の心構えについてお話しします。
 

応募したポジションで強みとなる個性や性格をアピール

すでにお伝えしたように、面接官に対して、親しい友人に接するときと同じ態度で対応することはできません。しかし、自分の個性を面接の中で上手く表現していくことは可能です。まずは、自分の個性や性格の中で、応募したポジションに強みとなる部分を明確にしましょう。
 
必要なスキルや企業文化、企業の価値観など、あらかじめリサーチ していた結果をもう一度確認して下さい。自分と面接官の双方が強みであると認める性格や個性はどれでしょうか。例えば、応募した仕事では、高いコミュニケーション力が求められているとします。往々にしてこうした仕事では、優れた傾聴力が求められます。良好な人間関係を築くには、他人の話をよく聞くことが不可欠だからです。「私は聞き上手だ」と思うならば、それをどのように面接の過程で表現できるのか考えてみましょう。
 

面接での答え方を工夫

次は面接の質問を例に考えてみましょう。「一緒に仕事をした人たちは、あなたをどんな人だと言っていますか?」と聞かれたとき、あなたは今までどんな回答をしていましたか?「チームプレイヤーだとよく言われます」と答えていたのではないでしょうか。自分の強みを理解していれば、答え方は違ってきます。「私は、困難な状況でもポジティブに対応できる、とよく言われます。弱音を吐くのは好きではありません。問題が起きたら、まずは解決に向けて集中的に取り組むのがモットーです」など、より具体的な回答をすることができるでしょう。
 
個性や性格を表すエピソード があれば、さらに説得力が高まります。実例があれば、あなたがどのような場面でいかに状況判断をするのか、また、あなたがどのような人物であるのかが、一段と伝わりやすくなるからです。
 
一方で、面接対策として「シナリオ」を作り、一言一句違わないよう練習することはお勧めできません。準備のしすぎは自分らしさを見失わせ、かえって不誠実に聞こえてしまうものだからです。
 

面接官との信頼関係を築く

面接官との信頼関係があれば、 面接でも自信を持って自分らしさを表現できます。ただし、信頼関係を築くためには、事前に十分な準備をしておくことが重要です。このように考えてみましょう。面接官もあなたと同じ人間です。つまり、彼らにも今のあなたのように、面接を控えて緊張していた時期があった、ということです。また、あなたが今感じている恐れは、未知への不安から来ているものが大半です。これを解消するためにも、担当リクルーターに面接官のバックグラウンドを確認したり、LinkedInといったビジネス特化型のSNSで、面接官の情報を集めておくことをお勧めします。
 
面接当日、面接官はあなたを受付で待っていてくれるかもしれません。そのときは、笑顔だけでなく適度なジェスチャーも交え、感謝の気持ちが伝わるような挨拶をしましょう。挨拶が終わると、面接官の方からアイスブレークの会話をしてくれることが殆どですが、何も話しかけられなかった場合は、「本日はよろしくお願いいたします」などと、軽く話しかければ良いでしょう。面接中は、明確で具体的な回答をする一方で、面接官が話しているときはしっかりと耳を傾けて下さい。対話とは、キャッチボールのように双方向で進めるものだからです。面接が最終段階に差し掛かったら、面接官自身のキャリアについても質問してみましょう。例えば、「この企業で働いてみて、良かったと思う点は」などです。
 
こうして信頼関係を築くことができれば、自分一人が「注目されている」と気負うこともなくなりますし、会話などを通して、あなたがどのように人間関係を築くことができるのかもアピールすることができます。
 

リラックスして、自分らしさを見失わず!

最後になりますが、大切なことをお話しします。面接前は、自分をリラックスさせて、ポジティブな気持ちを維持できるよう 工夫してみて下さい。面接前は、ネガティブな気持ちや面接への不安に苛まれがちです。これを解消できなければ、面接で自分らしさを十分に発揮することができなくなるかもしれません。不安があれば、リクルーターに相談しておくのもよいでしょう。面接は、面接官とあなたが対話する場であり、あなたが一方的に「取り調べ」を受けるものではありません。自分を励ましながら自分の長所を思い出し、セルフイメージを固めていきましょう。
 
面接で本来のあなた自身と全く違う人格を演じることはお勧めできません。面接の目的は、応募した仕事に貢献できるあなたの個性を、プロフェッショナルな形で面接官に伝えることです。
 
この転職が失敗したとしても、企業文化との相性が合わなかっただけかもしれません。また、入社しなかったことが、結果的にあなたにとって良いことだったのかもしれません。不安であれば、リクルーターにフィードバックを求めても良いでしょう。面接のテクニック向上に役立つアドバイスがあるかもしれません。ただし、テクニックに囚われて、くれぐれも自分らしさを失わないように。自分自身に誠実に。そうすれば、あなたらしさを発揮できるチャンスが巡ってくるはずです。
 
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アダム・シャープリー
ヘイズニュージーランド、マネージングディレクター
アダム・シェイプリーは、リクルート業界で17年の経験を持つベテランです。マネージングディレクターとして、ニュージーランドにおけるヘイズの全事業を統括している。また、ANZ Management Boardのメンバーでもあり、オーストラリア全体のビジネスを成長させるための戦略的な方向性を決定する責任を負っている。