スキルアップが雇用主と従業員の双方にもたらすメリット

新型コロナウイルスの感染拡大以降、従業員のスキルアップの重要性が高まっています。ビジネスの世界は、前例のない速さで根本から変化しました。一方で、デジタルトランスフォーメーション(DX)が急激に進むなか、これに対応できる人材の供給が追いついていません。
 
これは、あらゆる部門や業界のビジネスリーダーに影響を与える問題です。反復作業の自動化が進み、雇用主の理想としては常に新しい人材を探すのではなく、今いる従業員がその能力を向上し、より専門的な役割に貢献できるようになることを望んでいます。また、従業員も自身のスキルを向上させる方法を積極的に模索し、継続的にキャリアアップしていきたいと考えるようになっています。従業員のスキルアップに適切に取り組むことによって、雇用主は従業員の定着率、エンゲージメント、満足度を向上させることができます。
 
一方、サステナビリティは私たち全員にとって、常に最優先事項であることに変わりありません。ヘイズでも、金融業界におけるサステナビリティへの意識の高まりによって、ESG関連の職種の大幅な増加を目にしています。また、グリーン経済の実現のためにデータ管理に関するスキルの重要性が高まっていることもわかっています。関連する知識を持つ人材をなかなか見つけることができない場合、従業員のスキルアップこそが解決策として有効であることは明快です。
 
雇用主と従業員はこの状況を踏まえてどのようにスキルアップに取り組むべきか、ヘイズは、無料プラットフォーム「My learning」を提供しているeラーニングサプライヤーのGo1と、雇用主と従業員のスキルアップに関する意識を世界規模で調査することにしました。本調査では、学習への姿勢や資質、学習リソースの利用可能状況について雇用主と従業員にアンケートを実施。学習に関して両者が同じような認識を持っているのか、それともギャップがあるのかを調べました。
 
今回は、「スキルアップの意識調査レポート2022」の調査結果や、従業員のスキルアップを支援する方法について紹介したいと思います。
 

従業員と雇用主のスキルアップに関する考え方にズレ

従業員のスキルアップにはメリットがあるのにもかかわらず、ヘイズの調査によると、雇用主と従業員のスキルアップに関する考え方にズレがあることがわかりました。ここでは、レポートのなかでも特に重要な3つのポイントを紹介します。
 

1. 雇用主は、従業員のスキルアップに対する意欲を必ずしも認識していない

従業員の83%が学習やスキルアップに対して「強い意欲がある」と回答した一方で、従業員に「強い意欲がある」と答えた雇用主は48%に過ぎないことがわかりました。雇用主が従業員を過小評価しているのか、それとも従業員が自身の希望をうまく伝えられていないのでしょうか?
 
 
「従業員の83%が学習やスキルアップに対して『強い意欲がある』と回答した一方で、従業員に『強い意欲がある』と答えた雇用主は48%に過ぎないことがわかった」
 
Go1共同創業者のクリス・アイジランドは、次のように話しています。「本調査は、人々が新しいスキルを学ぶことに強い意欲を持っていることを示しています。スキルアップやリスキリング、継続的な成長が、昇進、仕事への満足度、キャリアの選択肢のために重要であることを認識しているのです」。
 
「そして、人材育成が不十分な企業は高い離職率と燃え尽き症候群になる従業員を抱え、将来の人材を惹きつけるのに苦労していることもわかっています」。
 

2. 雇用主は自社のトレーニングを従業員より高く評価している

雇用主の78%が、企業が提供する学習リソースが十分だと考えているのに対し、そのように考える従業員は半数をわずかに超える程度でした。実際に、従業員の25%は企業から提供されている学習リソースに満足していないと回答
 
アイジランドは、下記のように語っています。「オンライン学習は、職場の学習の文化において必要なトレーニングを提供し、従来のスキルアップのやり方を大きく変えました。雇用主は、従業員のニーズに合わせてトレーニングのプログラムを調整できるようになったのです」。
 
「人事担当者やトレーニングのマネージャーは、画一的なアプローチではなく、従業員1人ひとりのニーズや目標に合ったトレーニングを検討すべきです」。
 

3. 新型コロナウイルス感染拡大によって企業はより多くの学習リソースを提供したかという質問に対し、「提供した」と答えた雇用主の割合は従業員の2倍に

半数近く(46%)の企業が新型コロナウイルス感染拡大以降、より多くの学習リソースを提供したと主張していますが、これに同意している従業員はわずか23%にとどまっています。DXやスキル不足といったトレンドは2020年以前からよく見られていましたが、新型コロナウイルスがこれらのトレンドを加速させたことは否めません。従業員のスキルアップは解決策の1つですが、新型コロナウイルスが学習戦略に与える影響については、雇用主と従業員の間で意見がわかれています。
 
 
「半数近く(46%)の企業が新型コロナウイルス感染拡大以降、より多くの学習リソースを提供したと主張していますが、これに同意している従業員はわずか23%にとどまっている」
 
 

従業員にスキルアップを促すために

このような学習に関する考え方のズレを認識したうえで、ビジネスリーダーが具体的にできることをまとめました。
 

1. 従業員への価値提案(EVP)に学習を組み込む

従業員のスキルアップに対する意欲は、確かに存在します。ヘイズは、この1年半で2900万分のコースを提供した「My learning」から、このような大きなニーズがあることを認識しており、今回の「スキルアップの意識調査レポート」が従業員のスキルアップに関する意欲をさらに浮き彫りにしました。
 
ビジネスリーダーは人事部と協力し、EVPに学習を組み込む必要があります。学習を組み込むことで、高いスキルをもち、企業への満足度が高い従業員がビジネス全体に大きな利益をもたらしてくれます。
 
ヘイズのグループヘッド・オブ・ピープル&カルチャーを務めるサンドラ・ヘンケは以前、記事「YOUR EMPLOYEE VALUE PROPOSITION: EXAMPLES OF HOW TO KEEP A HAPPY WORKFORCE」(英語のみ)のなかで、「教育サービスプロバイターのLormanが実施した調査によると、ミレニアル世代の59%が求人に応募するか決める際に学習の機会が非常に重要だと考え、76%は専門的な能力の開発機会が企業文化の最も重要な要素であるととらえているそうです」と述べています。
 
EVPに学習を組み込まないと、人材の維持・獲得に苦労することになります。
 

2. メンター制度の導入

ヘイズの調査によると、メンター制度のほとんどは活用されていませんが、活用されている場合は好評であることがわかっています。メンター制度があると回答したのは、従業員の21%、雇用主の39%にとどまりました。しかし、従業員の66%、雇用主の76%がメンター制度に満足していると回答しています。
 
さらにメンター制度は、新型コロナウイルスによるネガティブな影響を受けませんでした。実際に、雇用主の半数が新型コロナウイルスの感染拡大はメンター制度にポジティブな影響を与えたと回答。メンター制度にネガティブな影響を与えたと答えた割合が、従業員で18%、企業で20%という数字と比べると、大きな差があることがわかります。
 
特に、メンター制度は若手社員に効果的であり、メリットは双方にあります。エンタープライズ・ソリューションのマネージング・ディレクター、シェーン・リトルは次のように話しています。「メンター制度、あるいはよりカジュアルなバディ制度を導入するメリットは、従業員だけのものではありません。経営者が若手社員と交流する枠組みを作ることで、次世代が仕事に対してどのような考え方を持っているか知ることができるからです」。
 
「職位に関係なく知識を共有することで、若手社員はビジネスの背景にアクセスでき、経営者は次の顧客の考えを伝えることができ、企業全体に貴重な知見が行き渡るという利点があります」。
 

3. キャリア開発のプランを設定する

ヘイズの調査によると、雇用主の65%が勤務時内でのスキルアップを定期的に促していると回答。さらに、81%が仕事のなかでスキルアップを視野に入れて採用すると答えています。しかし、企業との間に具体的な学習方法など明確なキャリア開発のプランがあると回答した従業員は、わずか27%に過ぎませんでした。
 
従業員との明確なキャリア開発プランの設計は、「スキルアップの意識調査レポート」で明らかになった学習に関する考え方のズレの解消に役立ちます。また、従業員が希望する学習方法についてのオープンなコミュニケーションによって、最適な解決策を提供できます。
 
Go1は「人事のリーダーは、雇用主同様、従業員の能力を最大限に引き出し、スキルアップをより効果的なものにするために、トレーニング方法やソリューションを調整することが大切です」と話しています。
 
従業員が新しいスキルの習得に強い意欲を持ち、継続的な学習を重要視している事実は、ビジネスリーダーが活用すべきポジティブな要素です。DXが急速に進む一方で、スキル不足は依然として深刻な問題。スキルアップ戦略を正しく行うことができれば、雇用主と従業員の双方にとって大きな利益となります。
 
スキルアップの意識調査レポートの詳細は、こちらから。
 
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著者

アリスター・コックス
ヘイズCEO
2007年9月にヘイズのCEOに就任。1982年に英国のサルフォード大学で航空工学を学んだ後、ブリティッシュ・エアロスペースの軍用機部門でキャリアをスタート。1983年から1988年までシュルンベルジェに勤務し、ヨーロッパと北米の石油・ガス産業において現場や研究の職務に従事した。
1991年にカリフォルニア州のスタンフォード大学でMBAを取得し、マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとして英国に帰国。マッキンゼー・アンド・カンパニーでは、エネルギー、消費財、製造業など、さまざまな分野を経験した。
1994年、ブルーサークルインダストリーズに転職し、グループストラテジーディレクターとして戦略立案や国際投資を担当。この間、ブルーサークルは新しい市場で重量の重い建築材料に焦点を当てた事業を展開し、1998年にはマレーシア・クアラルンプールを拠点にアジア事業を統括するリージョナル・ディレクターに就任。また、マレーシアやシンガポール、フィリピン、インドネシア、ベトナムの事業を担当し、2001年のラファージュによるブルーサークル買収後は、ラファージュのアジアのリージョナル・プレジデントとして、同地域の事業責任も担った。
2002年には、ITサービスおよびバックオフィス処理会社であるXansaのCEOとして英国に帰国。Xansaでの5年間の在職中に、組織の再編成を行い、英国を代表する官民両部門のバックオフィスサービスのプロバイダーとなり、インドに6,000人以上の従業員を擁する、この分野で最も強力なオフショア事業を構築した。