コロナ時代を乗り切るためにテクノロジーが出来ること
ヘイズ チーフ・インフォメーション・オフィサー スティーブ・ウェストン

 

ITプロフェッショナルには、混乱の対応に追われることも仕事のうちの一つです。新型コロナウィルス発生前から、私たちは常に予測も出来ない変化に対処し、これを乗り越えてきました。換言すれば、変化や混乱の発生時こそが、テクノロジーの出番であると言っても良いでしょう。

しかし今回のコロナ禍は、熟練したテック分野のプロフェッショナルの目から見ても、従来の「混乱」とは全く異なる意味や様相を呈していました。今回の混乱は、少なくとも私の人生において、これまで経験したことがないほど大規模なものだったのです。事実、コンサルティング企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、5年分のデジタル化がわずか数ヶ月で加速度的に完結しています。

コロナ危機への対策として、企業3分の1がサプライチェーンのデジタル化を進め、2分の1が電子商取引やスマートフォンアプリ、チャットボットなど顧客向けの新しいコミュニケーションツールを採用し、3分の2が人工知能(AI)や自動化の導入を前倒しで実行したと言われています。

社会が変化すれば、新しい課題や要求も生まれます。世界各国のITプロフェッショナル達は、こうした課題や要求に応えるために立ち上がり、これまでの働き方を刷新することで激流のような試練の時代に対応してきたのです。CIOを始めとするIT分野のトップたちは、新型コロナによる次の混乱に向けて準備を進めています。

テクノロジーは変化し続ける時代に革新的に対応していくことが出来る

新型コロナウィルス蔓延当初は、テクノロジーが真価を発揮出来た時期でもありました。テクノロジーの導入と、これを支援するスタッフたちの活躍で、既存のビジネスモデルを新しいモデルに迅速に移行出来た企業は少なくありません。世界中の多くの労働者がテレワークに移行出来ただけではなく、eコマースや電子決済の普及も瞬く間に進みました。

しかし一方で、こうしたテクノロジーや仕事のプロセス、そして労働者の間には大きな「ひずみ」も生じてきました。ITリーダー職のおよそ85は、テレワークを常時かつ恒久的に実施すると、労働者へのプレッシャーが増大すると懸念しています。また、3分の2のリーダーたちは、自身のチームが時間やリソースの面で限界に近付きつつあるとも訴えています。さらに調査を進めると10人に8人のリーダーが部下たちの精神衛生を心配しており、そのうち58%は、メンタルヘルスのプログラムを導入して部下たちを支援していることも明らかになりました。

コロナ危機の発生から数ヶ月が過ぎ、その影響による課題も変化してきました。国際刑事警察機構(インターポール)が最近実施した調査によると、これらの課題の中で最優先の対応を迫られているのは、依然としてサイバーセキュリティです。サイバー攻撃の規模は拡大し、その内容は一段と複雑化しています。この傾向が止まる兆しは未だに見えません。世界経済フォーラムの調査では、新型コロナウィルスで英国企業が蒙ったリスクのうち、サイバー攻撃は倒産や失業の長期化に続き3番目に位置付けられています。

コンサルティング企業のアクセンチュアは、社員(テレワーク中の者も含みます)のデータセキュリティを脆弱なまま放置しておくと、将来、データのプライバシーを巡り大きな問題が発生する可能性がある、と予想しています。さらに詳細に調査すると、テレワーク開始時にIT部門から十分な指導を受けなかったと回答した労働者は47%に上りました。こうした例に鑑みると、アクセンチュアの予想は驚くには値しないものなのかもしれません。

また、最近では「コラボレーションによる疲労」も新たなリスクとして浮上してきました。テレワーク中の労働者は、連日のようにビデオ会議や「離れていながら一緒にいる(together-but-apart)」オンラインでの仕事に追われ、疲労感を感じつつあります。オフィスで働いていた時は、会議の合間にリラクゼーションルームで雑談を交わす余裕もありましたが、オンラインでの会議が日常化するにつれて、このように一息つける時間は失われつつあります。後述しますが、ITプロフェッショナルは現在、コラボレーション疲労解消に向けてオフィスでの業務再開が出来るよう準備を進めており、複数のプラットフォームを使ってコミュニケーションを試みています。

不透明な時代に向けてITプロフェッショナルが準備していること

コロナ禍による混乱は、今後も長期に渡り継続していく可能性があります。こうした時代を乗り切るために、ITプロフェッショナル(CIOと直接協力しているスタッフも含め)が企業の課題解決に果たす役割は、益々大きくなるものと思われます。CIOの職務も大きく変化しそうです。CIOは、「Chief Information Officer(最高情報責任者)」を意味するものから、「Chief Influence Officer(最高影響責任者)」を表すものへと発展していく、と予想する専門家もいましたが、この予想は、昨今一段と現実味を帯びています。CIOは、企業の文化的・企業的な価値を決定づけるような、つまり従来はCEO(最高経営責任者)が担ってきたような意思決定にも幅広く関与するようになるでしょう。ビジネスや企業が一段と変化に晒されるようになれば、確実なソリューションを求めて、真っ先にCIOの意見が求められるかもしれません。

次に、私たちITリーダーやITプロフェッショナルが、昨今の変化にどのように対応しているか(また、どのようにこの変化を生かしているか)をご紹介しましょう。

#1 コラボレーション疲労の解消に向けてクロスプラットフォームによるコミュニケーションを導入

従業員の連携維持と、コラボレーション疲労の解消という2つの目的を両立させるため、ITプロフェッショナルは、職場への復帰策を支援しています。もちろんこの場合、職場は新型コロナウィルスの最新ガイドラインに従い、ソーシャルディスタンスを維持し、清潔な環境を保っていることが条件です。職場を再開する場合には、オフィスの間取りをデータ化し、デジタルサイネージや追跡アプリ、センサー技術などを効果的に活用すれば、職場の状況や出勤しているスタッフの人数を把握しやすくなるでしょう。

一方で、オフィスの出勤とテレワークを併用するハイブリッドな働き方の推進が、職場再開の足かせとなる可能性も否めません。この働き方が認められれば、スタッフは気分次第で出勤を決めるかもしれませんし、他のチームメンバーとスケジュール調整が必要になる場合もあります。しかし、こうした場合にこそ、臨機応変で総合的なソリューションが役立ちます。出勤者の数に合わせてオフィスの間取りを調整したり、感染リスクを軽減しながら従業員が安心して職場に復帰出来る対策を導入すれば良いのです。CIOITプロフェッショナルは、最適なオフィス環境を創り出すために、新しい技術の導入や維持、モニタリングなどでお手伝いすることが出来るかもしれません。

コラボレーション疲労の緩和については、クロスプラットフォームによる(OSや使用PCが異なっても共通で使える)コミュニケーションツールを導入し、デジタルコミュニケーションを常に最適な形で行えるよう対策を講じています。ビッグ4」と呼ばれる会計事務所、デロイト トウシュ トーマツは、「従業員に情報を提供するときは、彼らが好むコミュニケーション様式に従った方がよい」と提唱しています。つまり、一つのテクノロジーで、全てのケースに対応するのは無理があるのです。

このような共通プラットフォームや、個人仕様のコミュニケーションツールへの需要が高くなると、従来のネットワークへの負荷が増大し、ストレステストの実施や冗長化によってパフォーマンスの向上を講じる必要性が生じます。これについては、クラウドを使ったソリューションが有効でしょう。実際に、今回の危機中では、83%の企業がテレワークに必要なツールの提供や、クロスプラットフォームでのコミュニケーションにおいて、クラウドが有効だったと回答しています。当面の間、クラウドが重宝される傾向は続くでしょう。

#2 クラウドを臨機応変に活用

ネットワーク以外にも、クラウドに力を入れる企業は少なくありません。電子商取引のプラットフォームをクラウドネイティブ(アプリケーションレベルでクラウド技術に最適化すること)で、かつマイクロサービスに特化して開発すると、柔軟性の高いプラットフォームを構築することが出来ます。こうしたプラットフォームがあれば、企業はサプライチェーンの混乱が続いても、容易に対応することが可能です。マイクロサービスとは、機動的な開発手法として知られた「DevOps」を補足する形で生まれた技法です。この技法を効果的に活用すれば、小規模なスタンドアロン型のアプリケーションを微調整して、電子商取引のプラットフォームに反映することが出来ます。ある調査によると、この2つの開発手法は、その応用性の高さから、コロナ禍以降使用率が急進しています。

上記のソリューションにより、企業は第1波の間に築き上げたデジタル基盤を維持しながら、次の数ヶ月で新しいビジネスに進出することも可能でしょう。クラウドやDevOps、マイクロサービスは、費用対効果が高く、予算面でも優れています。現在は、この3つのように費用対効果が高く、応用性に優れたソリューションが主流となっています。ComputerWeekly.comの記事によると、コロナ危機の当初3ヶ月、企業は1週間ごとに15億ドル相当の追加費用をITに投じていましたが、今では2020年通年のIT費用は7.3%減と見込まれています。この費用削減例からも伺われるように、ITプロフェッショナルたちは、オペレーションの合理化と既存技術のモダナイゼーションに力を入れ、企業が持続的に勝ち残るための支援をしています。

#3 IT部門とAIの役割の増大

減収に悩む企業が増えていることから、CIOは、予算を見直して顧客や従業員の満足度を高める施策に切り替えようとしています。こうした施策の中に、製品やサービスのパーソナライゼーション(個人の属性に合わせた製品やサービスを展開すること)があります。これは、人間の行動様式に注目した、昨今主流とされているデジタルトレンドの一つです。パーソナライゼーションが効果的に機能すれば、企業は顧客に最適な経験をしてもらうことが出来るため、顧客の満足度も向上していくでしょう。

企業が自社のオペレーションを合理化し、ユーザー・エクスペリエンス(ユーザーの満足度や経験)の向上に役立てているのが、オートメーション(自動化)やAI、機械学習などです。コンサルティング企業であるアクセンチュアは、ビジネスを前に進めるためには、人間とAIのコラボレーションが不可欠になると予想しています。業務を効果的にこなすことが出来るだけではなく、ビジネスのあり方自体を変革することが可能になるからです。例を挙げると、コロナ禍の時期から、チャットボットやボイステックを使った顧客とのコミュニケーションを検討する企業が増加しています。また、2020年には、ウェブ検索の30%が音声検索などに代替されるという予測もされています。AIで強化されたセキュリティツールを導入すれば、IT部門のスタッフは少ない労力でこれまで以上の成果を挙げる一方で、企業全般の生産性を改善することも出来るでしょう。

最近実施されたある調査によるとロボットの使用や、ロボットによる仕事のプロセスの自動化によってコロナ危機の9ヶ月間を勝ち残った企業は、4分の3に上りました。これらの技術が労働力の不足を補い、サプライチェーンの最適化に役立ったからです。市場調査を行うIDC社の調査では、公共機関においても、クラウド技術やAIは引き続き重要な役割を果たしていくことが予想されています。例えば、病院は、新型コロナ関連の診察や検査を迅速に行ったり、チャットボットで自宅療養中の患者の相談に乗ることも出来るようになります。

#4 スキルニーズの変化を理解し、これに備える

今回のコロナ禍では、特定のスキルやポジションに対する需要が高まりました。しかし、ITに対するニーズは常に変化しています。IT部門では、こうした変化に対応するために、スタッフのスキル向上やトレーニングを継続するとともに、IT人材として将来も活躍出来るように、生涯にわたって学び続ける姿勢を持つよう奨励しています。ヘイズのテック部門責任者、ジェームス・ミリガンは、「ロックダウン当初は、企業や教育機関が一斉に在宅勤務や在宅学習の導入に踏み切りました。このため、当時はクラウドアーキテクトやクラウドエンジニアの需要が非常に高かった」と語ります。

新型コロナは、現在もさまざまな形で私たちの社会に影響を及ぼし続けています。ミリガンは、「変化し続ける情勢に対応するため、企業はデータセキュリティの専門家やデータアナリスト、データサイエンティスト、機械学習の専門家、チェンジマネジメントのスペシャリストなどを求めるようになるでしょう」と予想しています。一方、最新の調査では、新型コロナとの共存が求められる中、データ分析や機械学習、サイバーセキュリティなど、専門性の高い知識へのニーズが高止まりしたまま推移することが予測されています。

これに加え、最近ではIT部門と他部門との協力も増えたため、ITプロフェッショナルにも優れたソフトスキルが求められるようになりました。例えば、欧州委員会は、ポストコロナ時代に必要とされるスキルとして、技術知識やデータリテラシー、デジタルスキルやコーディングスキルの他に、リーダーシップやEQ(心の知能指数)、順応性、創造性、クリティカル・シンキング(批判的思考)などを挙げています。プログラミング言語について言えば、今回の危機ではR言語に対する見直しが進みましたがC言語やJavaPythonの主要3言語への需要も当面の間続くものと思われます。

最近では、ITプロフェッショナルのみならず全ての労働者が、混乱に対して効果的な対応を求められています。今回のコロナ危機で、私たちの働き方は良い方向へとシフトしました。この新しい働き方は、今後私たちの生活に定着していくことでしょう。こうした情勢の変化は、CIOITプロフェッショナルたちの仕事にも大きく影響しており、今後は、ビジネス全般で彼らの影響力が強まることが考えられます。ITプロフェッショナルたちは、今も、これからも世界を動かし続けるために、革新的で必要不可欠な役割を担っていくことでしょう。

 

執筆者

ヘイズ チーフ・インフォメーション・オフィサー

スティーブ・ウェストン

ウェストンは、20081月にチーフ・インフォメーション・オフィサー(最高情報責任者)としてヘイズに入社しました。1977年に自動車メーカーでキャリアをスタートさせたウェストンは、1987年に金融サービス業に転身します。1997年にはXansa plcでITサービスの仕事を開始、200712月までUK Managing Director(英国のマネージング・ディレクター)の職を務めました。ウェストンは現在、ヘイズにおいて最高情報責任者を始め様々な役職を担っています。