レポート
DNA シリーズ
Ai Miyakawa
シスコシステムズ合同会社
業務執行役員 人事部長
「人事部門のトップはあくまで通過点であって、キャリアの最終目標ではありません。大切なのは、そこでどのように力をつけ、さらに飛躍するチャンスを掴めるかどうかです 」
「恐れず思い切ってやって見なさい」と言われたことが、これまでのキャリアで何よりのアドバイスになったと宮川愛さんは言います。現在、世界最大規模のネットワーク企業シスコの日本法人、シスコシステムズ合同会社で人事部長を務める彼女こそ、失敗を恐れずに取り組めば何が実現できるのかを証明しています。
「おそらく、成熟した日本企業の人事部長の中で、私は最年少の部類に入ると思います。皆さんに言いたいのは、もしチャンスがあるなら絶対にやってみろ、ということです。私のようにいろいろ失敗もするかも知れませんが、一番大事なのは、失敗を恐れることなく、学ぶチャンスととらえて経験から成長していくことです」
チャンスを両手でしっかりつかみ、上司が認めてくれた潜在能力をベースに経験を積み重ね、今や彼女は同年代の女性エグゼクティブの先頭を切っています。
若くして経験豊富
人事部門でのキャリア14年は、他社の人事部長に比べると年数こそやや少ないかもしれませんが、宮川さんには多彩な経験があり、しっかりとキャリアの足固めができています。「これまで何回か修羅場を経験したことがあります。そこで衝突への対処の仕方や難問への取り組み方を身に着けてきました」
人事部門のトップになると、常にそういった場面に備えておく必要があり、宮川さんに言わせるとそれこそがこの仕事の醍醐味です。「人事部門のトップになることがキャリアの最終目標ではありません。大切なのは、そこでどのように力をつけ、さらに飛躍するチャンスを掴めるかということです」と彼女は言います。「難しい問題に直面することは自分を成長させるためには大いに役に立ち、さらなるキャリアアップにつながるでしょう」
宮川さんは学生時代から人事関連の仕事に就きたいと思っていました。大学で心理学を学んだ後、自分の興味が臨床分野ではなく、組織にあることに気が付きました。
人事担当者として彼女はまず、人事・給与業務に携わり、その後、C&B(報酬・給付)業務を担当するようになりました。「C&B業務は本当に好きでした。今でもこの業務に携わっていたいという思いが多少残っていますが、自分のキャリアを長期的に考えれば、どこかで目標をHRビジネスパートナーに切り替える必要があると考えました」
彼女は元々、HRビジネスパートナーとしてシスコに入社し、人事部長に昇格したのは、それから3年後の2016年7月のことでした。
方向性を見定める
IT業界で長年働くうちに、宮川さんは業界特有の性質があることに気が付きました。「この業界では常に変化が起こっています。今年うまくいったからと言って、次の年に同じことをやってもうまくいくとは限らず、常に変化に対応していかなければなりません」そしてこれこそが、次世代のHRプロフェッショナルに不可欠なスキルだと確信しています。
これからは、人事部門は管理業務や機能を果たすだけでなく、ビジネスパートナーとして会社に対して指針を示し、取締役会の一角を占めるようになるべきだと感じています。
現在、宮川さんはさまざまな取り組みを通じて、変わらなければならないことが分かっていながら、いかに変化を受け入れ、対応すればよいかがわからない従業員の意識改革に取り組んでいます。「トレーニングプログラムを提供することもあれば、上司からのメッセージという形で従業員をサポートすることもあります。HRは先頭に立って変化をけん引していく必要があり、そのためには会社のビジネスそのものを理解することが何より重要になります。
信頼関係を構築する
トップを目指すHRプロフェッショナルなら、ビジネスであれ、上司や部下であれ、しっかりと信頼関係を築く能力を持っていなければなりません。人事部門として、私たちは難しい決断を下さなければならない場面がたくさんあります。だからと言って感情的なつながりを捨ててしまうわけではありません。従業員のためを考えると同時に会社全体の成功に気を配らなければならず、両方のバランスをうまく取りながら、人に対しては敬意を持って接することが人事部門のトップに何より求められる資質です。」宮川さんはその意味で、人の話に注意深く耳を傾けること、状況を素早く判断すること、効果的なコミュニケーションを取ることを心がけています。
人事担当者としてのセンスや業務に必要なスキルを持っていることは重要な資質であるものの、こうすれば間違いなくHR部門のトップに立てるというような道などないことは彼女も認めています。「最終的に求められるのは、人事部門の機能を理解し、さまざまな考え方に対してオープンであること、そして何と言っても大切なのは、人事部門のトップというだけでなく、ビジネスリーダーとしての心構えができていることです。従って、会社がどのような課題を抱えているのかを理解し、ビジネスリーダーとしての考え方を身に付けて、本当の意味のギャップを埋めることができれば大いに付加価値を高めることができます。そうすることで、他のビジネスリーダーが成功するために本当に役立つインサイトも提供できるようになります」
同様に、別の業界に移ることは人事プロフェッショナルとしての能力を高める上で役立つかもしれません。より多様な挑戦の場に身を置くことができるからです。IT業界では、敏捷性や順応性を大いに高められます。医薬品業界ではM&Aが頻繁に起こることもあり、通常では経験できないようなスキルを身に付けるチャンスがあります。
市場の動向を注視する
宮川さんは常に意欲的にスキルを磨き、新しい仕事に慣れるに従ってネットワークづくりにも力を入れました。また最新の市場動向や人事関連の話題も常にチェックしています。「市場は常に変化しています。ホットな話題には常に気を留めておくべきです」
人事部長になると、昼夜関係なく呼び出されることも珍しくなく、ワークライフバランスを保つことが難しくなります。宮川さんは、「この地位にいる以上、こうしたことはつきものですし、特に社長や役員クラスとやり取りする必要がある場合などは仕方がありません」と明かします。一晩中、ついスマートフォンでメールをチェックし、なかなか完全に仕事モードをオフにできないことも多々あると言います。。
常ににワークライフバランスを維持することは困難でも、残業が続いた次の週にはできるだけ仕事時間を減らすことを心がけるべきだと考えています。一年中、残業が当たり前のようになってしまうことは避けるべきです。
ネットワークづくり
宮川さんの場合、上司と良好な関係を築くことがキャリアアップに役に立つことを経験が物語っています。「次のチャンスを手にするためには、まず今の仕事を頑張ることが大切です。私の場合、社内での異動や転職のチャンスは、いつも仕事を通じて私のことを良く知っている人を通じてもたらされましたた。そこにいる誰かが以前の私の仕事ぶりを見ていて、私ならうまくやれると思って新しい仕事を紹介してくれたのです」
現在、宮川さんは将来的にリージョナルのポジションを目指す決意を固めており、職場で今も毎日、仕事ぶりを認めてもらえるよう頑張っています。「良い人間関係を築いた上で、どのような仕事であっても今やっていることを頑張っていれば、それが将来のキャリアアップにつながると考えています」と宮川さんは言います。