レポート
DNA シリーズ
Shahzad Umar
ネスレ マレーシア・シンガポール
HR担当エグゼクティブディレクター
人が成長したり、仕事上でレベルアップしていく姿を見るのは楽しいことです。変化や進歩を目の当たりにできることが、最もやりがいを感じるところです。
エンジニアから人事担当者への転身
Shahzadは特に人事に関連した資格を持っているわけではありません。実のところ、彼は工学学士号を取得し、2001年にエンジニア研修生としてNestlé(ネスレ)に入社しました。以来、これまでネスレ一筋でキャリアを築いてきました。同じようなキャリアパスを人にも勧めるか、という質問に対して、彼は、何度も転職を繰り返す、いわゆる「ジョブホッピング」は勧めないが、関連分野でいくつか場所を変えて働く経験することは間違いなく視野を広げ、世の中がどのような仕組みで動いているのかをを理解する上で、必ず役に立つと答えています。
エンジニアとして研修をスタートしてすぐに、Shahzadには工場のテクニカル・トレーナーの仕事が与えられました。これが、彼にとって人に関わる業務に携わった初めての経験でした。入社1年目を終えると、別の工場へ異動になり、そこで人事部門を立ち上げる業務に就きました。エンジニアから人事への転向を考える人は多くありませんが、Shahzadはその仕事を大いに楽しみました。「特に私が好きなのは、人が個人的な成長を遂げたり、レベルアップしていく姿を見ることです。変化や進化を目の当たりにすることこそ、この仕事で最もやりがいを感じるところです」
Shahzadは自社のビジネスを理解することの重要性にも触れています。また、どのような背景の下で事業活動を行っているのか、組織としてどのように機能しているのかを理解することも、同じように重要だと指摘しています。組織として人材戦略を決定する上で、これらが重要な要素になるからです。
パキスタン、そしてタイへ
Shahzadは工場の現場でHRマネージャーを2年間勤めた後、パキスタンのネスレ(Corporate Office of Nestlé Pakistan)に異動になり、リクルートメント&組織開発チームの責任者となりました。
そして2008年、1年の任期でC&B(Compensation & Benefits)担当マネージャーとしてタイのNestlé Indo-Chinaに出向し、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオスの5カ国の従業員の給与や手当に関する業務を担当しました。
2009年にはマレーシアに移り、Nestlé Malaysia & Singaporeの組織開発および教育・研修開発を担当するようになります。
ここで3年半務めた後、2012年後半、Shahzadはパキスタンに戻り、パキスタンおよびアフガニスタン地域の人事責任者として、ここで数年間を過ごしました。
海外でのこれまでの任務を振り返り、母国であるパキスタン以外でのこうしたさまざまな経験が自分のキャリアにとって大いにプラスになったと確信しています。「海外勤務を経験することで自分を見つめ直すことができ、さまざまな場面に遭遇し、自分自身の力を蓄えることができます。タイでのB&C業務に就いた時、職位や待遇面で言えば、実際にはそれまでよりも条件は悪かったのですが、私自身、C&B分野で経験を積む必要があると思っていたので、大きな意味があったと思います。
パキスタンでの勤務が3年半を過ぎたころ、Shahzadは上司からの電話を受けました。マレーシアに戻ってHRディレクターを務めてくれないかという申し出でした。彼はこれを受けました。
組織の仕組みを理解する
ShahzadはこれからHRDを目指す人たちに対し、敢えて自分のような道をたどることも、自分のやり方でスキルを身に付けることも勧めてはいません。「HRDになるためにこれといって決まった方法があるわけではありません。目標に到達するための道はいくつもあります」
HRDにとって大変な仕事の1つに、会社のトップや役員クラスの人たちの利益と、従業員の利益とのバランスを取っていくという任務があります。これをうまくこなすには、ものごとの本質をとらえ、これを主張できる人物になることが非常に重要だと彼は確信しています。「会社が今何を考えているのか、メッセージを効果的に伝え、従業員に対してそうした考え方をはっきりと示すことのできるスキルを身に付けることが何より重要です。どうすれば経営陣と従業員の両方のコンセンサスを得られるかが分かっていなければなりません」
ここで不可欠なのが、会社がどのように経営され、業務がどのように行われているのか、会社の仕組みを理解しておくことであり、ShahzadはHRDの地位にある者にとって、この点こそ最も重要であることを知っておかなければならないと考えています。何か人に関する問題が生じた際、HRでは問題の本質を理解できず、実際の役には立たないと考えられるせいで、ほとんどのラインマネージャーがHRマネージャーに相談するよりもGoogleで解決策を見つけようとする事態になることが一番怖いと言います。企業経営の仕組みや組織のあり方を十分に理解することによって、HR担当者は自信を付けることができます。
観察力を身に付ける
ほとんどのHRDは幅広い人脈を持っていますが、Shahzadはこれまで特段、そのための努力はしてきませんでした。目標に到達するための道はいくつもある、というのが彼の持論です。「HRDを目指す人は、市場価値という点から自分自身の可能性を考えてみなければなりません。企業が望むのは、ものごとの観察や書籍、あるいは人との付き合いなど、あらゆることから積極的に学ぶ姿勢を持っている人です」
企業にふさわしいHRD候補になるために必要なスキルや経験も、それぞれに違った身に着け方があると彼は考えています。「私がどうやって現在の地位を築き、必要なスキルをどうやって身に付けてきたかと言えば、重大な局面の場数を踏むことで、どの企業でも間違いなくHRDに求める経験を積んできたのです」
HRDにとって、優れたコミュニケーションスキルは必須です。同時に、組織全体をどうすれば活気づけられるかを知っていることも重要です。さらに、社内でどうすれば同僚を説得できるかを知っている必要もあり、何より重要なのが、優れた観察力を持ち、自分自身を顧みることができる能力です。
HRDを目指す人へのアドバイス
HRDとして働くことは、仕事に長時間が取られるということです。Shahzadはワークライフバランスの信奉者ではありません。代わりに、「ワークライフブレンド」の考え方を好み、「人にはそれぞれのブレンドがある」と考えており、「時間の使い方はそれぞれの個人的なニーズによって決められるべき」だと力説します。
彼は、かつて彼自身が教わった洞察のいくつかも紹介してくれました。「キャリアを通じて私が常にアドバイスされてきたことの1つに“done is better than perfect(完璧を目指すよりもまず、終わらせろ)”という言葉があります。大切なのは、常に向上心を持ち、自分自身を磨くチャンスを常に求めるという姿勢だと思っています」
最後に、Shahzadはこれから人事担当者としてキャリアをスタートさせようとしている人へのアドバイスとして、まず、自分自身をしっかりと見つめて欲しいと言います。「経験というものはあくまで個人的なものです。HRDを目指す人、さらに言えばどんな人でもまず、今、自分がやっていることで1番になることを目指すべきです。そうすればチャンスは広がっていき、必ず前進することができるでしょう」