レポート
DNA シリーズ
Wendy Montgomery
レッドハット シンガポール
アジア太平洋地域担当人事統括責任者
「人事のスペシャリストになるだけでは足りません。人事に携わる者は、財務であれ製品部門であれマーケティングであれ、それぞれの部門が会社をどのように支えているのかが分かっていなければなりません」
Wendy Montgomeryは典型的なHRD像には当てはまらないとよく言われます。キャリアをやり直すことができたとして、もう一度HRDになる道を選択するかどうかという質問に対し、彼女は「わからない」と答えました。そもそもHRの分野でキャリアアップすることなど、想定外だったのです。
「今は人事が1つの部署として認められるようになっていて羨ましい限りです。専門の資格を備えた1つの職種として、この道を目指す人がキャリアを築いていくためのしっかりとした基盤が提供されています。優れた人事プロフェッショナルになるためには、人事部門が支えるべき会社のビジネスそのものを理解する必要があります。ただ人事のスペシャリストになるだけではだめで、財務であれ製品部門であれマーケティングであれ、人事に携わる者はそれぞれの部門が会社をどのように支えているのかが分かっていなければなりません。
そうした知識があれば、今この分野で求められている有能で戦略的なHRビジネスパートナーを目指すことができます。
これまでの経歴
Wendyは英国陸軍でHR担当者としてのキャリアをスタートし、ジブラルタル連隊に配属されました。
ドイツで全国職業資格(National Vocational Qualifications、NVQ)取得のための指導員として働いた後、英国に戻ってヘイズのIT部門(SAP部門)に勤務し、IT業界の「ビッグ6」のためのSAPコンサルタントの採用に携わりました。1999年、Siebel社の南アジア地域担当リクルートメントマネージャーの職を得てシンガポールに移ります。ところがこの仕事はわずか3週間しか続きませんでした。というのは、当時の上司から、HRマネージャーの仕事も引き受けてくれないかと依頼されたのです。こうして、WendyのHRDへの道が始まったのでした。
Siebelの後、International SOS、ESPN STAR Sports 、Vistaprintとシンガポールでいくつかの企業に勤務し、現在在籍するRed Hatに入社し、アジア太平洋地域担当人事統括責任者を務めています。
これまで2大陸の4カ国で働いた経験から、彼女はこうした国際経験がいかに重要な意味を持つかを実感しています。「欧州での勤務を通じて各国ごとに異なる労働法規や雇用法制を学ぶ貴重な体験ができました。キャリアアップを目指すすべての人に、世界の別の地域で暮らして多様な考え方を身に付け、異なる文化に触れてみることをお勧めします」
今の仕事では世界中のオフィスとやり取りしなければならず、ワークライフバランスを保つには難しい状況です。「シンガポールで1日が始まる頃、米国はまだ営業時間中ですが、欧州はこちらで1日が終わるころに動き出します。地位が上がれば上がるほど、タイムゾーンをまたいで仕事をしなければならなくなります。つまり、深夜の電話会議も頻繁にあり、従来のオフィスアワーでは対応できない目標や任務も次々に出てきます。私としてはできるだけ平日は融通が利くようにして、合間を縫って家族の用事がこなせるようにしています」
飽くなき向学心
Wendyはこれまでメディア、医療、サービス、ソフトウェアといくつかの業界を渡り歩いてきました。ずっと1つの業界で働き続けることにはメリットとデメリットの両方があると思っています。「特定の業界について深い知識が得られることや、強力な人脈が築けることは、明らかなメリットです。デメリットとして、よりよい判断を下すために必要な多様な考え方を身に付けることが難しい点が挙げられます」
さらに、企業経営の内側を理解することは、絶対に必要だと感じています。「会社が抱える課題や市場、あるいは財務モデルなどを理解していなければ、会社に対してどのようなアドバイスを行えばよいか、見当もつかないでしょう」
HRDとして成功するために必要なスキルをどのように身に付けたかという点について、Wendyは、動きが速くダイナミックで、柔軟な体制が整った組織の中で仕事をしたことが役立ったと言います。「特に、オペレーションに注力する戦術の段階からより戦略的に、ビジネスパートナーとしての機能が求められるようになる変革期にあるいくつかの会社での仕事は非常に楽しかったです。私自身、変化をけん引し、新しいシステムを導入して人事部門を再構築し、単なる業務部門として指示を受けるのではなく、パートナーとしての機能が果たせるということについて、社内の理解を高めていきました。
よりダイナミックで動きの速い環境で働くことで、短期間でより多くの事を学ぶ機会が得られます。WendyはHRDを目指す人に対し、のんびりしたペースに埋もれて「惰性」になってしまわないよう忠告しています。そうなると社内で能力を高めて成長していく可能性にも歯止めがかかってしまいます。
彼女自身、常に貪欲に学び、会社に積極的に貢献したいという強い思いを抱いて仕事をしてきました。そうした貢献ができ、しかも目に見える形で成果が上がらなければ、どれだけ高い給料をもらったとしても、満足感は得られないでしょう。
あらゆるステークホルダーの利害調整
Wendyは決断力と人を動かす力によって、HRDとして成功を収めてきました。企業のCEOから常に多くを要求され、自信のないまま何とかコミュニケーションを試み、自分の判断が正しいのかどうか、不安を抱くこともしょっちゅうでしたが、それこそ、彼女が目指していたことでした。
「私はいつも意識的に、自分が口にしたことを確実に実現できるように期待値を設定しています。期待通りの成果を上げられないと、信用を失い、個人ブランドに傷をつけかねないというのが私の意見です」
彼女は個人と会社の両方の利害のバランスが取れるようなアプローチをすることの重要性も強調しています。「常に中立の視点を保ち、双方にとってフェアな判断を下すことが大切なのです」
アドバイス
これまでで自分に最も役立ったと思うアドバイスとして、Wendyは「性急な決断を下さないこと」を挙げました。「よく考えて、無理に結論を出さないようにすることです」。このことは、今でも肝に銘じていると言います。
さらに、常に最新のテクノロジーを身に付けることや、自分にとって効果的な人脈を構築することも勧めています。「キャリア全般を通じて、知り合いが推薦してくれた結果として仕事のオファーをいただいてきました。たとえば最近では、自分の「つて」を利用してKPMGで働くコンサルタントとのつながりができました。会って話をした結果、志を同じくするプロフェッショナルによるコミュニティを作るプランを立てました。
さらに、「最新のテクノロジーを身に付けたり、最新のトレンドや新製品の発売などを常にチェックしておく必要があります。メンターを得て先輩から知識やインサイトを学んだり、成功に至る道のりを聞いたりできるようにしておくことも大いに役立ちます。また、自ら進んで外の世界に出ていくことも大切です。イベントの講演を引き受けたり、小さなことから始めて徐々に自信をつけていくことができます。人脈を広げ、志を同じくする他社の人事担当者との横のつながりを持ち、他の会社で何が行われているのかを知ることも重要です。
HRプロフェッショナルの皆さんには、自分をビジネスパーソンとして考えてみていただきたいと思います。自分なりのビジョンを打ち立て、そこに同僚たちを巻き込みましょう。自分で判断の付かない場合は、怖がらずに他の人に意見を求め、十分な情報を得た上で決断を下すようにすれば、より良い結果を推し進めていけるでしょう。