レポート
DNA シリーズ
Jean-Baptiste Faivre
CIO Japan, Societe Generale, Corporate & Investment Banking
ITの世界での専門知識ランキングということになれば、Societe Generale SecuritiesのCIO、Jean-Baptiste Faivreは、自分がトップの地位を争うことはないと真っ先にいうでしょう。幸い、彼はそんなことは気にしません。企業経営に携わる者にとっては、必要な専門知識を持った人材を採用し、そうした人材の能力を最大限に引き出す力があることの方がはるかに重要だと考えているからです。
CIOへの道
2001年、金融保険数理学の修士号を取得してPolytech Nice Sophiaを卒業したFaivreは、自分が数学者に向いていると考えており、IT業界に進むことになったのは全くの偶然だったと思っています。
「卒業した時には、インベストメントバンキングや金融の数理モデルを学びたいと思っていたので、その方面に力を入れているチームに入りました。しかしそこは、ただ理論的なモデルを作るのではなく、実際のインベストメントバンキングに応用する上で重要な役割を果たしている部署だったのです。理論的な概念を実践に移すため、IT用語を学ばなければなりませんでしたが、それが非常に興味深いものだということに気がつきました」
偶然とはいえ、ここで新たな興味を持ったことがJean-Baptisteのキャリアを定めることになり、その後母国フランスでIT関連のさまざまな管理職に就いて、昇進への道を歩むことになりました。Jean-Baptisteは強い信念を持って着実に進歩し、2~3年ごとに新たなチャレンジや役割を引き受け、特に異なる国での勤務の機会を逃しませんでした。こうして2007年、香港に移りSociete GeneraleのITエクイティデリバティブ ポストトレードサポート責任者の職に就きました。
「新しい国に行って、新しい人たちと別の仕事の仕方を見つけることで、適応力が大いに鍛えられ、急速に変化する環境ではそれが重要な意味を持ちます。海外経験を通じてそうした力が身に着いたことを実感しています。」
香港でさまざまな職務を歴任しながら徐々に上の地位に昇っていったことがJean-Baptisteの適応力の高さを証明しています。当初はこの分野でのキャリアなど考えていなかったものの、業界に精通するに従って、自然にCIOの地位を目指すべきだと思えるようになりました。このため、2015年、現職のオファーを受けた際には、国際経験をさらに積めるチャンスだということもあり、喜んでこのチャレンジを引き受けたいと思ったのです。
Jean-Baptisteはその理由について、「フロントオフィスからバックオフィスまで、すでにさまざまな管理職を経験し、是非ともステップアップを図りたいと思っていました。このような地位に就くことでビジネスの隅々に至るまで、実に幅広い知識を得られ、それが何より魅力的です」と説明しています。
15年間に渡る業界経験を通じて、Jean-Baptisteがテクノロジーに関して目を見張るほど幅広い知識を蓄積してきたことは疑いようのない事実であるものの、IT関連のバックグランドを持たない者がCIOの地位に就くことはあまり一般的ではないかも知れません。Jean Baptiste自身はそのことを全く問題にしていません。彼としては、この地位にまで上り詰めることができたのは、リーダーシップや組織力、対人スキルといった能力の賜物だと思っているからです。
CIOに求められるスキルセット
Jean-Baptisteは、「私としては、技術的なスキルよりもソフトスキルの方がもっと重要だと思っています。どのような組織にも才能のある人や優れた技術を持つ人はたくさんいるものですが、CIOに最も問われるのは、そういった人たちのエンゲージメントをいかに高め、そうした人たちの意見を取り入れて適切な判断が下せるようにすることです」と言います。
CIOの地位に就く者は必ずしも技術的に最も優れている必要はないが、技術的に最も優れた人材の活かし方を知っているべきであるという彼の持論は、彼が初めて管理職に就いた時期に形作られました。
当時、管理職に成りたての多くの人がそうであるように、彼もまた自らが率先して手本を示し、自らの持つ専門ノウハウでチームを率いようとする間違いを犯していたのです。そんな時に上司の1人から受けたアドバイスの一言を、Jean-Baptisteはその後ずっと守ってきました。
「上司から、人に仕事を任せることを学ばなければならないと言われたのです。それができなければ、組織としては今の場所から外せなくなるために、永遠に同じ地位に縛られることになるのです。別の優れたマネージャーにいつでも交代できるようにしておくべきであって、マネージャーというものはかけがえのない存在になるべきではないということを教えられました」と当時を振り返ります。
当初、彼はこの忠告に違和感を覚えたと言います。自分が役に立たないと言われているのかと思ったのです。「しかしその後、私自身も成長し、あの時教えられたのは権限委譲と人材の育成という基本的なマネジメントスキルのことだったことに気が付きました。」
Jean-Baptisteはマネジメントに欠かせないこの考え方を肝に銘じ、彼なりのやり方でチームを育て、率いていくやり方を作り上げてきました。今、CIOの役割として戦略プランの策定、株主との関係強化、そして何よりも人を管理するスキルを高めることがいかに重要であるかということを、かつてないほど実感しています。
部下の昇進を手助けするだけでなく、人材管理のスキルを磨くために重要なのがネットワーキングです。日本で有能なCIOとなるためには、これは外せない要素だとJean-Baptisteは考えています。
「CIOを目指す人ならだれでも、人脈作りは欠かせません。私はそこにコラボレーションやコミュニケーションスキルの向上を結び付けて考えています。CIOとして最も強みになるスキルは、多くの人とコラボレーションできることです。」とBaptisteは指摘します。そして実際のコラボレーションで重要なことの1つが、「適材適所の人材」を見つけることだと感じています。そうした人材が見つかった後は、その人たちがしっかりと仕事を成し遂げられるよう、サポートしたりリーダーシップを与えたりするのはCIOの考え方次第です。
Jean-BaptisteはCIOについて、「CIOは部下が安心してついていけるように、強みや自信を実際に示せなければなりません」と提言しています。「そこで不可欠になるのがコラボレーションです。自分の部下やクライアントとしっかり連携して仕事を進めることが大事です。誰の力も借りずに成し遂げられることなど、絶対にありません。」
ネットワーキングと共にJean-Baptisteが非常に重視しているのが先見性―先を見通す力です。「どのような立場であれ、企業のトップに立つ人間には誰も指図はしてくれません。空から何かが降ってくるのを待つのではなく、方針を打ち出すのは自分であり、あなたが明確なビジョンを設定することを皆が期待しているのです。先を見通す力はCIOとして最も必要な特性の1つだと言えます。」
CIOの役割
IT以外の業界でキャリアをスタートさせた人間にとってはそれほど驚くことではないかも知れませんが、Jean-BaptisteはCIO就任後1年余りで自らに課したことの1つに、自分の担当部門を出て、社内を幅広く眺めるというテーマがあります。ITが組織全体でどのように機能しているかを見る取り組みを、自らが指揮して他部門で試みています。各部署はそれぞれに異なる業務上の問題を抱えており、当然、さまざまな課題に直面することが考えられるものの、あらゆる困難を凌ぐ大きな可能性がこうした取り組みを通じて見えてくると感じています。なにより会社全体に対する理解が深まることで、より広範囲な改善を実現させることができるのです。
こうした取り組みを手掛けたこともあって、Jean-Baptisteは取締役会に名を連ねることが自分にとって当然、キャリアの次のステップになると考えるようになりました。実のところ、あらゆる企業で当然、CIOが取締役会に加わるようになるべきだと考えており、それは最優先課題であるとさえ感じています。
「情報のデジタル化が急加速している中、取締役会にCIOが加わって、ITの持つ可能性を経営陣がしっかりと理解することは、どの企業にとっても急務だと心底思っています。CIOはまさに時代の大きな渦の中心に立とうとしており、ますます大きなプレッシャーを背負うことになります。ITにかかる期待は極めて高く、今日CIOの地位にある人達は将来CEOの地位を担う人たちだと確信しています」とJean-Baptisteは述べています。