創造力がクリエイティブな仕事だけのものではない理由
食べる、呼吸する、眠る、そして何かを想像するー世界のどこで暮らしていても、私たちが日常生活の中でとる行動は、とてもよく似ています。
しかし、創造力(クリエイティビティ)についてはいかがでしょうか。この能力は、私たち全員に与えられたものなのでしょうか。そもそも、「創造力」とは、一体どのようなものでしょうか。哲学でしょうか?それとも芸術?答えはその両方です。創造力は、本質的に哲学と芸術の双方を備えたものです。しかし、これをさらにシンプルにすると、創造力とは「考えること」と「創り出すこと」の2つのスキルに分類されます。そして、この2つは本質的に切り離すことができません。
創造力はキャリアでの成功に不可欠な資質
オックスフォード・ディクショナリーの電子版では、「Creativety(創造力)」を、次のように定義しています(英語のみ)。「The use of imagination or original ideas to create something; inventiveness.(仮訳「想像や独自のアイディアを活かして、何かを生み出すこと。発想力」)」。また、ある調査では、キャリアでの成功を望むのならば、早期に自分の創造力を育てる方法を見つけておく必要がある、と示唆する結果が出ています。これは、非常に説得力がある内容ではないでしょうか。
ビジネスの世界では、テクノロジーの浸透が進んでいます。テクノロジーが台頭すればするほど、創造力など、人間固有の能力(ヒューマンスキル)が高い価値を持つようになるでしょう。世界的なシンクタンク企業であるマッキンゼー・グローバル・インスティテュート が発行したレポートによると、2030年までに、知性に裏打ちされた高い認知力を求められる仕事に対するニーズは、約10%増加するとされています。私自身は、このレポートよりも早期の段階、つまり2030年よりも前に、10%を上回る割合で上昇すると考えています。
人間の創造力は、テクノロジーによる自動化の影響を受けません(英語のみ)。なぜなら、物事を創造する力は、機械から借り受けたり、機械を使ってコピーしたり、プログラミングして生み出すことができない、人間固有のスキルだからです。ただし、創造力を活用するためには、これを発揮できる環境を用意し、適切に人材を投入しなければなりません。創造力は、問題解決や戦略策定、アイディアの創出など、ビジネスを前進させるために非常に重要な役割を果たします。しかし、プロフェッショナルにとって、この創造力とはどの程度必要とされるものなのでしょうか。また、あらゆる仕事に必要とされるものなのでしょうか。
創造力はすべての仕事に必要か
アメリカの経済社会学者であるリチャード・フロリダ氏は、2000年初めに「The Rise of the Creative Class(邦題「クリエイティブ資本論」、英語のみ)を出版し、「スーパー・クリエイティブ・コア」と呼ばれる労働者たちが、一部の産業に変革を起こしていると伝えました。この本は賛否両論を呼び起こし、大きな話題となりました。フロリダ氏は、ビジネスやコミュニティが繁栄するためには、創造力が持つ力を認めた上で、成功に必要な要素を備えた環境を作らなければならないと考えていました。
同書の出版後、先進的な企業は、創造力が有望で希少なリソースであると気付き、ビジネスモデルとして「Creative Class strategy(クリエイティブ・クラス戦略、英語のみ)」を採用していきました。同書の内容を巡り批判的な声も上がりましたが(英語のみ)、批判の殆どは、フロリダ氏が、創造性が発展するのは、一部のクリエイティブ産業だけであると信じていたことから発生したものでした。確かに、ハイテクやイノベーション、芸術や文化に関連する仕事に従事する人々は、高く称賛されてきましたが、では、これ以外の仕事に携わっている人たちは高く評価されてこなかったのでしょうか。例えば、ソフトウェアの開発者は、一日中何らかの問題を解決しています。会計士は、企業の業績を精査して、効率的に収益を上げていくことができるようサポートしています。接客業も同じです。予期せぬ変化に見舞われる環境で、彼らはクリエイティブにコミュニケーションしながら働いています。
フロリダ氏は創造力の持つ深遠さには気づいていないかもしれませんが、多くの産業界では、「チーフ・イノベーション・オフィサー」という役職を設定するなど、すでに創造力に着目した動きを進めています。企業は、このような動きによって、従業員の意欲を高めようとさまざまな施策を打ち出しているのです。事実、創造力は企業の競争力向上に貢献しています(英語のみ)。つまり、従業員それぞれが持つ創造力は、企業にとって大切な資産なのです。
フロリダ氏の論は、現在もさまざまな視点から議論されていますが、同氏の主張には首肯すべき点が1つあります。それは、創造力は非常に重要なスキルであり、あらゆる業界で活用することができる、ということです。また、インダストリアルデザイナーとして知られるバルダー・アナハイム博士(英語のみ)も次のように述べています。「創造力は、芸術だけが必要とするものではありません。これはイノベーションの中核をなすものであり、人類が生存していくためにも必要なスキルです」。
私たちは生きていくために、食べて、飲んで、眠って、呼吸しているだけではありません。何らかの決断を行ったり、社会や経済に関する問題の解決策を考えたりしています。そして、こうした判断や思考を職場でも実行しています。これは私たちが生きていくために、必要不可欠な能力なのです。
生まれたとき、人は誰でも創造的
アナハイム博士は、「人は創造力を持って生まれてくる」と語ります。そして、「不思議なことに成長するにつれてこのことを忘れてしまう」とも。子供はおもちゃや石ころ、その他さまざまなものを、想像の世界で別のものに作り替えながら遊んでいます。例えば、おもちゃそのものよりも、それを包装していた段ボール箱で長い時間遊んでいたりします。私たちは皆、好奇心を持って生まれてきます。知りたいことがいっぱいで、問題を解決したいという思いに溢れた状態で人生をスタートしているのです。
しかし、学校に入学して卒業し、社会人になると、そうした好奇心は失われていきます。この過程で身に着けるルーティンなどの規則正しい行動は、クリエイティブな思考の妨げになることがあるのです。そして、時には創造的な意思決定や問題解決を遠ざけてしまうこともあります。
結果的に、私たちは成長するにつれて創造力を養うどころか、これらを忘れてしまう方向に向かってしまいます。しかし、この流れを変えることは可能です。まずは、自分の働き方を今すぐ見直してみましょう。「今日は何かこれまでとは違うことをしてみよう」と考えて、実行すれば良いのです。
創造力を高める3つの方法
これからの10年間で、多くの企業は、創造力というスキルを喉から手が出るほど欲しがるようになるでしょう。今回のブログでは、生まれ持った創造力を育み、キャリアに活かすことで理想のポジションを手に入れる方法をご案内します。
1. 適度な息抜きで脳に休憩を
最高のアイディアやひらめきが生まれるのは、どのような時でしょうか。それは、アイディアやひらめきの対象から離れた環境にいる時です。つまり、仕事でスプレッドシートや書類に集中しているときではなく、シャワーを浴びたり、散歩をしたり、リラックスして気持ちが解放された状態の時にインスピレーションが起こり、よいアイディアが浮かぶことが多いのです。これについては、ジャーナリストのマヌーシュ・ゾモロディ氏もTed Talkで発表したスピーチ(日本語字幕あり)、「How boredom can lead to your most brilliant ideas(邦題「退屈な時に優れたアイディアが思いつく仕組み」)」の中ですばらしい説明を行っています。
子供の頃を思い出してみて下さい。皆さんは、家の中であれ外であれ、さまざまな遊びを経験されたことでしょう。遊びは、非常に大きな意味を持ちます。卓球やスカッシュのようなシンプルなゲームをしていると、極めて短時間の間に問題解決の判断や戦略立案を実行していることが分かります。その一方で、私たちの創造性を急速に鈍化させているのが、日常よく使用しているスマートフォンです。
スマートフォンを使用するときは、着信通知をオフにし、メールのチェックは決められた時間に行いましょう。そして、就寝の1時間前にはスイッチを完全にオフにしておくことをお勧めします。スマートフォンから距離を置くことで、仕事でメールや書類を送信したり、一日の計画を立てる時、これまで以上に生産的に使用することができるようになるでしょう。Entrepreneur電子版の記事(英語のみ)にもあるように、例え短時間でもデジタルデトックスを実行することによって、心のゆとりが生まれ、より創造的な考え方ができるようになります。
最後に、これまで見た夢の中で、本当に楽しかったものを思い出してみて下さい。無我夢中になって冒険していたのではありませんか?たとえ夢の中であったとしても、あなたはあのようにエキサイティングな状況を思いつくことができたのです。良い睡眠がすぐれた創造力を生み出すことはよく知られており(英語のみ)、「sleep on it(一晩寝かせて考える)」というフレーズまであるほどです。一方、スマートフォンの使い過ぎが睡眠の障害となることも今では広く認識されています(英語のみ)。
2. 質の良い睡眠は、質の高い仕事に繋がる
「ディープワーク」という言葉をご存じでしょうか。これは、完全に集中した状態で、長時間にわたり難しい仕事に取り組むことができる能力を言います。この状態で仕事を行うことができれば、一つの仕事や課題に対して、長い時間取り組むことができるようになり、創造力が大きく引き出されます(英語のみ)。
また、適度な気晴らしも効果があります。平均的な社会人は、毎日メールを70回以上チェックし、コンピュータで566種のタスクをこなしていると言われています。また、適度な休憩を取らないと、何百回も集中力が途切れてしまい、創造力が低下していく、とも言われています。
3. 長年の習慣を見直す
あなたは今の仕事に就いて、何年目を迎えていますか?同じ仕事に長期間就任していると、新鮮さや興味が失われがちになり、創造力は徐々に停滞していきます。キャリアコーチングを提供しているキャリア・ストラテジー社社長のプリシラ・クラマン氏(英語のみ)は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌の中で、次のように説明しています。「仕事に就いて最初の数か月間は、新鮮で刺激的なことの繰り返しですが、これは心身を非常に消耗します。このため、人は時間がたつにつれて仕事をルーティン化していきます。やがてルーティン化された仕事はマンネリ化してしまい、創造性を失っていくことになるのです」。
クラマン氏の発言に思い当たることがあるのであれば、一度じっくりと自分の現状を振り返ってみてはいかがでしょうか。あなたの創造性に、悪い影響を与えている習慣やルーティンはないでしょうか。また、仕事の進め方で、改善できる点はありませんか。アイディアを積極的に他人と交換したり、仕事場を模様替えして気分を転換したりはできないでしょうか。会議の進行を見直すことはできそうですか?このように、日々の習慣を振り返り、自分がより創造的になれる方法を考えてみましょう。こうしたプロセスを一つ一つ見直すことによって、仕事への関心が高まり、斬新なアイディアが生まれてくることを感じるようになるでしょう。
また、プライベートの過ごし方も重要です。最後にポッドキャストを聞いたり、セミナーなどのイベントに参加したのはいつですか。新たな人に出会い、新たなことに挑戦し、自分のこれまでの行動を振り返ったのはいつになりますか。居心地の良い場所から一歩外に踏み出せば、創造力は自然と高まります。
最後になりますが、私は創造力というものは、クリエイティブな職業にだけ求められるものではなく、あらゆる職種に、つまり私たちすべてに必要なスキルであると考えています。将来にわたってキャリアで成功していくためには、このことを理解し、創造性を枯渇させることなく、積極的に行動を起こして育んでいくことが重要なのです。
他にも、スキルアップに役立つ情報を紹介しています。こちらの記事もぜひご覧ください。
著者
カレン・ヤング
ヘイズUK、ディレクター
ヘイズUKにおける金融分野の人材紹介事業を担当。約22年に渡り、人々のキャリア構築を支援してきた。
幅広い業種の人事財務について深い知識を持つ人材採用の専門家。400人以上の専門家を抱える財務・会計士採用チームでリーダーを務めている。人々のキャリア支援に情熱を注いでおり、カレンが行うキャリアプランニングや市場分析は、業界の声として大きく信頼されている。