採用担当者へのアドバイスー採用は、焦らず、戦略的に
新しい人材を募集する採用担当者の多くは、次の2つに分類されます。1. 忙しすぎて採用活動の時間すら見つからない、2. 業務に忙殺されて可能な限り速やかに後任者を見つけたい、の2タイプです。
そして、これらの採用担当者の中には採用を急ぎすぎるあまり、誤った採用判断をしてしまうケースも珍しくありません。それは何故でしょう。
採用担当者が業務で多忙すぎる
私たちの仕事は、多忙化の一途をたどっています。例えば現在、世界で1日に交わされる電子メールの数は、2,810億通にも達していると言われています(英語のみ)。
会議の回数や時間も増加しています。 1日の会議数は、3,600万回から5,600万回と推計されており(英語のみ)、上級管理職の場合、業務時間のおよそ半分を会議に費やしていると言われています。そして、採用業務で中心的な役割を果たす中間管理職は、1日の業務時間のうち約35%を会議に使っているようです(英語のみ)。
管理職の仕事は、ますます多忙化しています。そんな彼らが、会議を終えて戻った直後、部下から辞表を提出された時の心情は、察するに余りあります。山ほど積み上がった仕事量、これを片付けるための残業時間を想像し、暗澹(あんたん)とした気持ちに襲われるのではないでしょうか。
これを手っ取り早く解決するためには、辞める社員の後任者を見つけることです。早急に求人広告を出して面接を始め、求める条件に「なんとなく」マッチした人がいたら、早速採用することです。この人は、きっとあなたの会社の文化やビジョン、理念にも適合した人材であるに違いありませんーこれ以上あり得ないほどに採用プロセスが順調に進めば、こんなケースもあるでしょう。しかし、残念ながら現実には、人材の採用はこのように都合よくは進みません。
今大切なのは、焦る気持ちを抑えることです。その代わり、今、少しだけ時間と手間をかける(そんな時間も余裕もない、と感じるかもしれませんが)ことで、ミスマッチや将来の負担を軽減することができます。
忙しいときこそ大切にして欲しいステップとは
ストレスのたまる仕事を一緒に担当してくれていた同僚が退職してしまったら、最初に面接した人をすぐにでも採用して、この状況から脱出したいと考えるかもしれません。しかし、ここでははやる気持ちを抑えましょう。採用活動は、戦略的に進めることが大切です。
1. 募集する仕事に大切なことを明確にする
まずは、募集しようとする仕事について、重要なことを整理していきましょう。あなたがどんな人材を採用したいのか、正直に考えてみて下さい。
時間は非常に貴重です。新入社員が本当に担当すべき仕事だけを慎重に選んでください。現在の仕事で、ビジネス上価値がなくなったものや、重要度が低くなったものはありませんか。もしあれば、こうした仕事をシステムや機械などで自動化すれば、より高度な仕事を新入社員に任せることができるかもしれません。
募集・採用条件を決定する前に、これまでのその仕事に対する考え方を見直してみましょう。例え募集・採用条件と一致するスキルがなかったとしても、ある程度の経験がある人材であれば、他のスキルで代替できるかもしれません。
資格についても同じです。募集・採用条件に挙げられている資格は、本当にその仕事に必要なものでしょうか。それよりも、実務経験や資質を持ち合わせている方が、その仕事を効果的にこなしていくことができるのではないでしょうか。また、募集職種に直接関係なくても持っていてほしいスキル(コミュニケーション能力、問題解決能力など)はありませんか?
このように考えてみると、今は仕事に必要なものを洗い出す絶好のタイミングと言えるのかもしれません。これが上手くいけば、現在だけではなく、将来のためにも有益でしょう。
2. 魅力的な求人広告の作成を
求める人物像が明らかになったら、募集・採用条件を具体的に決定していきます。これまで使ってきた募集・採用条件を書き換えるのではありません。心から欲しい人材を惹き付けるような条件を創り出すのです。
まずは、会社の情報を記載します。会社情報を詳しく記載していない企業が多いようですが、採用とは企業と求職者の双方が合意しなければ成立しません。優秀な人材を採用したいのであれば、自社の魅力をアピールする必要があるのです。まずは自社が提供しているサービスや製品、これまでの実績、今後の狙いや成長プランを説明しましょう。企業文化や自社で成功するタイプの人材について案内することも重要です。また、これらを真剣に検討することで自社に必要なソフトスキルや、企業文化にマッチする人材像が具体的になってくることでしょう。
次に、募集する仕事の概要と業務内容、必要な資格やソフトスキル、持っていると有利な技術、応募に必須の経験について記載します。トレーニングなど福利厚生についても忘れずに記入しましょう。
言葉遣いにも注意しましょう。「先端を行く」や「風通しがよく、協力しあう文化」、「和気あいあいとした雰囲気」などは、耳なじみの良い言葉かもしれませんが、新鮮味に欠ける上、実質的には何の意味も持っていません。私は今回の記事で、「既存の概念にとらわれない」という言葉を使用していませんが、これも同じ理由からです。上記3つの言葉よりも、訴求力のない言葉かもしれません。
3. 転職エージェントと協力する
多くの企業にとって、優秀な人材の発掘と採用は、非常に困難で手間のかかるプロセスです。採用担当者が他の業務で忙殺され必要な人物像を絞り込むことができない、応募が殺到しているのに良い人材が少ない、または反対にほとんど応募がない―そんな時は、人材採用の専門家である転職エージェントに相談してみてはいかがでしょうか。
優れた転職エージェントは、理想的な人材の発掘や紹介ができるだけではありません。採用プロセスを円滑に進行させるお手伝いもできます。採用活動では、コミュニケーションが非常に重要です。ヘイズは、適切な質問をすることによって、お客様のご希望や状況を把握し、最適な人材を紹介いたします。募集要項のご登録、採用のご相談は、こちらから受け付けております。ぜひ、お気軽にご相談ください。
4. 面接のプランを立てる
焦って誤った採用をしないためにも、面接は慎重に、時間をかけて行い、さまざまな情報を吟味した上で決定することが大切です。正しい採用には、適切な採用計画と十分な時間が必要なのです。
面接開始30分前には、候補者たちへの質問内容をリストにまとめておきましょう。質問の内容は、ハードスキルや能力の他、どのようなソフトスキルを持っているのか、自社の社風に馴染むことができるのかが分かるものが良いでしょう。
面接では、そのリストを元に、どの候補者にも同じ質問をして下さい。そうしないと、平等に候補者を比較することができなくなるばかりか、無意識のうちに思い込みで判断し、最終的に誤った採用をしてしまうことにもなりかねません。
また、それぞれの面接には、十分な時間をかけるようにしてください。面接は採用プロセスの中でも非常に重要な部分です。決して焦らないで下さい。
面接が終了したら、候補者1人1人について面接中にメモしたことを読み直し、自分の考えをまとめておきましょう。他の仕事に追われているときでも、それぞれの候補者をはっきりと思い出せるようになります。
時間と手間をかけ、戦略的に面接を進めていくと、候補者の適性を公正に、正確に判断するコツがつかめるようになってきます。そして、最終的に適切な採用判断ができるようになってくるのです。
5. 採用がゴールではない
このような苦労を経て理想的な人材を見つけたら、「一件落着」と思ってしまうかもしれません。しかし、現実はそんなに甘くはありません。企業やマネージャー、つまりあなたが与えた第一印象は、候補者の判断に大きく影響します。採用した人材が定着するか否かは、ここからが勝負です。
その候補者が入社を決定してくれたら、入社後の研修や仕事のプロセスを慎重に検討しましょう。内容が適切で、かつ新しい社員が夢中で取り組めるようなものが理想的です。プロセスが決定したら、入社前に彼らに送りましょう。入社後は、新しく入社した社員ができる限り早く仕事や職場に馴染むことができるよう、彼らのコーチングや指導に優先的に時間を使って下さい。定期的に仕事の進捗具合を確認し、不安なことやトレーニングに対する要望はないかなどを確認しあうことも大切です。
新しい社員の入社直後は、どんなに他の仕事に追われていようとも彼らのために時間を使うことを惜しまないことです。そうすれば、彼らは素早く仕事や環境に馴染むことができ、あなた自身も彼らに安心して仕事を任せることができるようになります。何よりも、上司であるあなたとの関係が緊密になり、長期的にその会社で活躍してくれる可能性も高くなります。
人材採用を成功させる鉄則とは
何度も申し上げますが、採用に焦りは禁物です。条件にほぼぴったりの人材を見つけたとしても、性急に採用するのではなく、時間をかけて戦略的に選考を進めましょう。
社員が退職して忙しい時期に採用活動に使う時間なんて、なかなか取れない、と考えていた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、どんなに多忙でも、時間を見つけて優先的に取り組んでいけば、将来のために有効な採用方法を創り出すことができるかもしれません。
採用活動をプロの視点で、戦略的に考えて計画し、適宜に反省する時間を取りながら進めることができたのならば、それは、自分の理想通りにチームをマネジメントする時間を作ることができた、ということでもあるのです。
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著者
ニック・デリギアニス
ヘイズオーストラリア・ニュージーランド、マネージングディレクター
ニック・デリギアニスは1993年にヘイズに就任。ヘイズの運営を担当するディレクターをはじめ、ビジネスの様々なコンサルティングやマネジメントを担当してきました。2004年にはヘイズの取締役に任命され、2012年にはオーストラリア・ニュージーランド担当のマネージングディレクターに就任。ヘイズに入社する前は、人事管理とマーケティングの経験があり、心理学の正式な資格も持っています。