EVP、それは採用と定着を握る鍵―策定方法を詳しく解説

優れたEVP(Employee Value Proposition=従業員への価値提案)は、優秀な人材を引きつける有用な要素のひとつ。EVPは、企業で働く体験を示した明確で一貫したメッセージであり、優秀な人材を呼び込み、定着させるのに役立つユニークな体験をアピールするためのものです。
 
つまり、EVPを策定することで、優秀な従業員にとって何が自社で働く最大の魅力ととらえるかを理解・共有することができます。競合他社と同じ製品やサービスを提供していても、自社にしかない強みや価値があるはずです。
 

EVPとは?

EVPは、自社だけが提供できる価値を明確にし、社内外に伝えるもの。企業価値や社風、給与、福利厚生など有形・無形のものがあり、従業員が自分のスキルや経験と引き換えに得られるユニークな価値や体験を紹介しています。EVPによって、どのような人材が自社で活躍できるか示すことができるのです。
 
また、エンプロイヤー・ブランドとは分けて考えることが大切。EVPは、求職者や既存の従業員に対して自社で働くことで得られる価値を示すものであり、エンプロイヤー・ブランドは、社会が企業に対して抱く職場としての評価や魅力度を指しています。
 
2つの言葉は、重なる部分もあります。エンプロイヤー・ブランドは、EVPを社外にクリエイティブかつ魅力的に伝えることを目的としているものでもあるからです。そのため、2つの言葉は、同じ意味で使われることもあります。しかし、エンプロイヤー・ブランドは企業が何を支持し、どのようにビジネスを行い、その企業で働くことがどのようなものなのかについて、広く世界に伝えるメッセージである一方、EVPは従業員に対する「約束」と考えることができます。
 

なぜEVPが重要なのか?

「最大の資産は従業員です」「従業員を大切にします」など、ありきたりなEVPをよく目にしませんか?このような内容では、自社で働く魅力を説明することはできません。
 
EVPが重要なのは、自社で働くことで得られるメリットを候補者に伝えることができるからです。自社で働く体験を伝えることによって、社風に合っているだけでなく、自分のスキルや経験に見合った利益が得られるかを重視する人材を引きつけることができます。また、EVPに合致しない人材は、応募を控えるようにもなります。
 
しかし、従業員に何を提供できるか、その本質を定義するには、マーケティングチームと魅力的なキャッチフレーズやグラフィックを作ればよいというものではありません。EVPは、企業が提供する真の価値を表したものでなければならないからです。今回のブログでは、企業が取り組むべきEVPの策定方法についてまとめました。
 

EVPを定義するポイント

1. 自社の強みを明確にする

まず、自社の強みを明確にする必要があります。従業員が自社で働く際に魅力を感じている部分は何か、そして働き続けている理由は何かを調べます。今いる従業員の認識を把握できれば、それを活用してEVPを向上させることができます。
 
匿名アンケートやフォーカスグループインタビュー(複数人を集めて意見を交換させて情報を集める調査手法)、1対1のインタビューを今働いている従業員に実施し、従業員にとって何が重要か、何に魅力を感じているか、この会社で働きたいと思う理由は何かを確認。採用面接で自社に応募した理由を聞いたり、退職者に対して退職の理由、またはどうすれば退職を思い直したかを聞いたりすることも重要です。
 
人材紹介会社を利用している場合は、求職者がどのような点に魅力を感じているのか、フィードバックをもらうのも良い方法。
 
また、収集するデータには、社風、価値観、目標、キャリアアップ、リーダー、サポート、給与、福利厚生に関する従業員の認識が含まれている必要があります。調査を行う際には、給与や金銭的な待遇だけでなく、従業員が重視する無形の経験や報酬を見つけることも重要です。
 
たとえば、従業員の成長につながるメンター制度や、昇進のために何を達成しなければならないかを誰もが正確に認識できるようにしていますか。他にも、定期的なスキルアップの機会や協働する土壌を従業員に価値として提供できているでしょうか?
 

2. 給与と福利厚生の重要性を考える

今日の求職者は、これまでの多くの企業にはなかった、より魅力的なEVPを求めています。無料ランチやチームドリンクのようなサービスもあるに越したことはありませんが、柔軟な働き方やハイブリッドワーク、ワークライフバランス、魅力的な報酬が提供されていない場合、求職者は否定的な印象を持ちかねません。
 
企業の価値観や目的も、求職者にとってますます重要になってきています。従業員は、自分の勤める会社が社会にポジティブな影響を与えているかを知りたがっています。EVPのなかで、企業が支持する社会的・環境的・文化的な問題や、従業員がこれらに関連するプログラムに参加する方法について伝えることも重要です。
 

3. セールスポイントを強調する

データを集めたら、従業員が共通して高く評価している企業の価値観やセールスポイントをリストアップします。優秀な従業員が自社で働くことに関して何に最も魅力を感じているのか明確にすることで、はっきりとした方向性を持ってEVPを策定することができます。
 

4. 簡潔でわかりやすい言葉で伝える

次に、EVPを書き出してみます。メッセージは簡潔でわかりやすく。従業員にとって最も重要なもの、働き続ける理由、ここで働くことで得られる市場価値などを強調する必要があります。
 

5. 真実に基づいているか確認する

EVPは、単なる説明文ではありません。真実に基づき、自社で働く体験をできるだけシンプルかつ正直に表現する必要があります。これにより、メッセージには惹かれても現実にはフィットしていない人ではなく、自社で活躍する人材を引きつけることができます。
 
EVPが自社で働く体験を正確に表しているかどうか、今活躍している従業員に確認してみるのが◎。
 

次のステップは?

EVPを定義するは簡単です。難しいのは実行へ移すことで、多くの企業がつまずくところです。EVPを定義したら、社外に対するエンプロイヤー・ブランドに組み込み、具体的に行動していくことが大切です。
 
ウェブサイトから応募プロセスまで、未来の人材や顧客との接点はすべて、EVPを反映したものではなければなりません。EVPを社内外に発信する際の鍵は、一貫性。最初の仕事内容から入社後のキャリアアップまで、雇用関係のすべての段階、あらゆるチャネルで一貫したメッセージを発信する必要があります。企業の価値観や働く環境について一貫したメッセージがなければ、求職者は企業が自分に合うかどうかを判断できませんし、その逆もまた然りです。
 
EVPは、採用プロセスで伝えるだけのメッセージではなく、企業のあらゆるやり取りで重視すべきことです。たとえば、ワークライフバランスや継続的なスキル開発を支援すると言いながら、研修やキャリアアップ、学習休暇、フレックスタイム制などを提供しない場合、職場の実態と約束が一致していないことになります。
 

従業員定着のための戦略

弊社CEOのアリスター・コックスが以前述べたように、EVPは従業員を引きつけ、定着させるための戦略において非常に重要な要素です。企業の価値観や目的に合致している従業員は、より定着しやすくなります。価値観が同じであれば、従業員の仕事に対する満足度は上がり、離職率は下がります。
 

EVPを常に改善する

求人への応募状況や従業員の定着率など、EVPの成果を常に測定することが大切です。また、アンケートを実施し、従業員にとって何が重要かを把握し、入社後1年間だけでなく、キャリア全体にわたって相談に乗るようにします。
 
従業員の期待に誠実に応えることができるように、従業員の日々の経験において、EVPが適切で活力を与えるものか確認し、必要に応じて修正していくことが重要です。
 
人材戦略の関連記事:
 
 

著者

ニック・デリギアニス
ヘイズオーストラリア・ニュージーランド、マネージングディレクター
1993年にヘイズに入社して以来、ビクトリア州や南オーストラリア州、タスマニア州、ノーザンテリトリー準州のディレクターをはじめ、様々なコンサルティングやマネジメントを担当。2004年にはヘイズの取締役に任命され、2012年にはオーストラリア・ニュージーランドのマネージングディレクターに就任。ヘイズに入社する前は、人事管理とマーケティングの経験があり、心理学の正式な資格も持っている。