派遣スタッフのメンタルヘルス、その対処方法とは?
ティム・ジェイムス ヘイズVIC・TAS・ACT部門マネージング・ディレクター
派遣社員のメンタルヘルス不全には、さまざまな理由がありますが、ある調査によると、人材派遣という就業形態に起因した特有の原因があるようです。
派遣社員は、仕事が不定期で一貫した経験を積むことが困難であることから、自分自身が「使い捨て要員」ではないかと考えがちです。こうした考え方が、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があると指摘されているのです。
現在学んでいることを確実に習得し、私生活と仕事のバランスを上手く取り、向上心を持ち続けることが、心の健康の維持のために最も大切なことかもしれません。
派遣社員特有のメンタルヘルス問題とは
もちろん、健康な心を維持することが大切なのは、派遣社員に限ったことではありません。カナダのマギル大学は、派遣社員や契約社員、有期雇用で働く労働者の方が、正社員や安定した職業に就いている労働者に比べてメンタルヘルスを悪化させやすい、という調査結果を明らかにしています。
考えられる原因は、以下の通りです。いずれか一つの場合もありますし、複数の要因が絡むこともあります。
- 組織の、または組織の主要部門の一員として認められていないという疎外感が、自分は「使い捨て要員である」との考え方に繋がっている
- 正社員との待遇差を感じてしまう
- 定期的に仕事が変わることで、仕事の内容や就業時間が契約によってばらつき、安心感を持って仕事をすることが出来ない
- 就業場所など環境が絶えず変わるので、新しい環境に素早く適応しなければならない
- ルーティン作業のように、向上心や意欲を刺激されない仕事に就くこともある
- 自分自身のキャリアアップや成長に関係のない仕事に就くと、失望感が生じたりモチベーションが低下したりすることがある
中には、今回のコロナ禍による問題、つまり契約終了や生活への不安、健康不安などに悩まされている派遣社員の皆さんもいらっしゃるかもしれません。
一般的に、派遣社員の仕事にはさまざまな課題がつきまといます。派遣社員は、多数の企業で就業することから、新しいチームに馴染むことを繰り返し、新しい会社の業務プロセスに細かく対応していくことが求められます。
また、調査結果で特筆したいのは、若い世代ほど職場環境に恵まれず、メンタルヘルスを悪化させる可能性が高い、とうことです。これは、若い労働者ほど派遣社員や臨時雇用で働く機会が多いことが背景にあります。
派遣社員が良好なメンタルヘルスを保つためには
派遣社員の皆さんには、以下の方法を参考に自分自身の心をケアすることをお勧めします。
1. 仕事や職場に適応出来るよう準備をしておく
派遣初日から仕事を成功させるためには、出来る限り最高のコンディションで仕事に臨めるようにしておくことです。その職場に長年勤めるつもりで友人や知り合いを作ってみましょう。これが出来れば成功への道はぐっと近くなります。また、以下のステップも参考にしてみて下さい。「私は使い捨て要員」とか「私の代わりはいくらでもいる」など、ネガティブな考え方は払しょくされるはずです。
- チームメンバーを紹介してもらえなくても、積極的にメンバーのことを知るように努めて下さい。各メンバーの仕事と、それらと自分の仕事の関連性を理解するとともに、個人的な交流も深めましょう。
- 必要な時は、躊躇せずに質問しましょう。他のメンバーに手を差し伸べる時も遠慮してはいけません。こうしたコミュニケーションを通じて、自分がどの程度の仕事をすれば良いのかが分かるようになり、チームの中で戸惑うこともなくなります。長く在籍している社員の働きぶりを参考にしたり、仲間を見つけたりすることで、その会社やチームにさらに上手く溶け込むことが出来ますし、仕事も捗るようになっていきます。職場が主催するイベントなどに参加することも有効です。コロナ禍で従業員同士が直接対面出来る行事は制限され、オンライン型のイベントが一般的になりましたが、こうした行事にも出来る限り参加して、交流を深めていきましょう。
- 新型コロナウィルスの流行でさまざまな行動に制限が課せられたことから、派遣業務を在宅でスタートした方も少なくありません。また、在宅勤務の導入により、テクノロジーの普及も格段に進みました。このため、習得しなければならないテクノロジーの数が増加し、転職をお考えの皆さんは、特にご苦労なさるかもしれません。今後は、出来る範囲で構いませんので、新しい職場に移る前に、その企業で使用しているツールやアプリケーションについて予習し、慣れておくようにしましょう。こうすることで、就業後にテクノロジーによるトラブルに悩まされたり、ストレスを感じることもなくなるでしょう。
- 上司とも早めに良好な関係を築いておきましょう。将来のキャリアアップのためだけでなく、やる気の観点からも上司と有意義な信頼関係を早期から構築しておくことは、正社員同様とても大切です。上司とは率先してミーティングを行い、仕事以外でも率直に会話が出来る態勢を整えておくことが重要です。こうした取り組みは、あなたの上司にとっても、安心して仕事が出来る環境を創り出すことに繋がります。就業当初の数日間から数週間は、新しい環境に順応するため上司と頻繁にコミュニケーションしなければならないかもしれません。ですから、良好な関係の構築は、あなただけではなく、あなたの上司にとってもプラスになるのです。
2. 仕事とプライベートのバランスを
- プライベートと仕事の境界線を明確にしましょう。就業時間以外は仕事をしない、就業時間後は仕事関連のメールの確認はしない、残業しそうな場合には仕事を断る、などのルールを設定するのも有効です。また、趣味などの時間を意識的に作るようにしても良いでしょう。
- 十分な睡眠や食事、定期的な運動、アルコール摂取の抑制など健康な生活を維持出来るような習慣を持ちましょう。友人や家族と過ごす時間を持ち、仕事に追われすぎて消耗しないよう心掛けるのも良いでしょう。
3. 次の仕事までにモチベーションを維持する
仕事に就いていないときでも、個人として、また、プロフェッショナルとして成長するために出来ることは沢山あります。
- 仕事の「つなぎ」期間に入る前に、今後のために積極的に行動しましょう。例えば、仕事関連の強いパイプを築くために、リクルーターとのつながりを強めておくのも良いでしょう。
- 履歴書に最近就業した仕事に関する情報を詳しく記載しておきましょう。また、履歴書の構成や自己紹介の内容を変更したり、過去の成果を証明するために関連のある活動内容を記入したりするなど、内容を刷新するのも良いかもしれません。
- 過去に派遣社員として就業した仕事について振り返ってみましょう。好ましいと思ったもの、好ましくないと思ったものは何ですか?これらを整理しておけば、次の仕事を探す参考になるかもしれません。
- 過去の派遣業務で知り合った友人や知人たちなど、これまで築き上げたネットワークを利用して連絡を取ってみましょう。
- 仕事に就けない時期も手持無沙汰で過ごすのではなく、これまで経験したことがないプロジェクトにアサインされたつもりで、知識の習得などに励みましょう。
4. 学び続けることに責任を持つ
前述したように、プライベートや仕事で自分自身の成長や進歩が感じられないときは、やる気をなくしたり、自信を喪失したりすることもあるかもしれません。
- 気をつけなければならないのは、能力の限界を自分で決めて成長のチャンスを見逃してしまうことです。「テクノロジーは苦手」や「他人と上手く関わることが出来ない」など、自分の可能性を制限するような考え方は禁物です。常に向上心を持ち続け、現在の能力を積極的に伸ばしていくよう心がけましょう。
- 就業中も、次の仕事までの「つなぎ期間」の間も、常にスキルアップやスキルの見直しに努めましょう。自分自身の成長がよくわかるようになり、安心感を持って仕事をすることが出来るようになります。職場でメンターとなる先輩社員や同僚などを見つけて、仕事を効果的に行うための知識を提供してもらったり、チームに溶け込むためのサポートをしてもらっても良いでしょう。
- 仕事を上手くやり遂げるために必要であると感じたときは、躊躇せずに追加のトレーニングをお願いしてみましょう。派遣先や派遣元で学ぶ機会があれば、積極的に活用してみるのも有効です。離職中であったとしても、参加可能なセミナーに登録したり、自分が属する業界に関連したトピックをポッドキャストなどで聴講してみましょう。
5. 一つ一つの仕事が、新しい仕事を習得するチャンス
自分の成長に必要な機会が用意されているのならば、どんどん積極的に利用しましょう。
- 短期的な収入を得るための仮の仕事などと派遣業務を軽視しないよう注意して下さい。その仕事を学びの機会ととらえ、最大限の価値をつかむように努力しましょう。
- 他の派遣社員が躊躇するような、特殊なプロジェクトや仕事にも目を向けましょう。長い目で見ると、あなたのキャリアを育むために必要なスキルを獲得するチャンスかもしれません。また、こうした任務を引き受けることによって、方向性も定まり、プロフェッショナルとして一歩前に進むことが出来るかもしれません。
6. 友人や家族などに気持ちを打ち明けてみる
自分自身の心の不調を、他人に率直に打ち明けることが出来る人ばかりではありません。こうした話題を、タブーであると考える人は今でも存在します。しかし、そのために日常生活の営みが困難になっているのであれば、勇気をもって話してみることも大切です。その相手は信頼出来る友人や家族が適切だと思いますが、抵抗がなければあなたの上司でも良いかもしれません。
- 1対1の対面式で上司に面談をお願いしてみましょう。
- その面談で上司に相談したい内容を事前にまとめておきましょう。自分の気持ちを正直に伝えるとともに、現在の仕事で自分にプラスになっていることも伝えましょう。
- 自分自身で考えた解決策を伝えるとともに、上司の意見にもしっかりと耳を傾けましょう。あなたの解決策とは、違う提案をしてくれるかもしれません。
- 相手が誰であったとしても、話をすることで孤独感が癒されます。困ったときには周囲が支援してくれることを実感できれば、あなたの気持ちも安定してくるでしょう。
7. さらに踏み込んだサポートが必要な時は、かかりつけ医や主治医に相談し、臨床心理士や精神科医などを紹介してもらう
- 症状によっては、精神科医や心理士の診察は必要ないかもしれませんので、注意しましょう。
- 単に日常生活の課題や問題で悩んでいるのであれば、セラピストに相談してみてはいかがでしょうか。セラピストは、感情をコントロールし、あなたの心にマイナスの影響を与える心理的な葛藤を整理する手伝いをしてくれます。
派遣社員の皆さんは、心の健康を維持するために積極的に行動して下さい。皆さんの心の状態は、皆さんのキャリアや成功と深く関係しています。自分の精神状態を守るために、プロフェッショナルとしてのキャリアを転向したり、他人の支援を求めたりすることは、決して恥ずかしいことではありません。また、自分の感情や思考の動きには十分注意を払いましょう。こうした変化に敏感になればなるほど、ストレスが肥大する前に、早い段階で対処することが出来るようになります。
困難な仕事や時期には、ストレスやフラストレーションがつきものです。しかし、こうした対処法を身に着けておけば、そのようなケースに直面しても、心の健康を見守りながらプロフェッショナルとしての目標を容易に達成出来るようになるでしょう。
この記事に興味を持たれた皆さんには、こちらの記事(「11 ways to take care of your mental health and wellbeing at work」)もお薦めです。
著者
ティム・ジェイムス
ヘイズVIC・TAS・ACT部門マネージング・ディレクター
1996年にロンドンとケンブリッジに拠点を置くヘイズ・コンストラクション・プロパティに就任。1999年には、オーストラリアのビクトリア州にヘイズコンストラクション&プロパティ専門のビジネスユニットを設立するために任命され、現在はビクトリア、タスマニア、オーストラリア首都特別地域のリージョナル・マネージング・ディレクターに就任。
MSP、RPO、専門請負業者、大量労働者の採用、正社員、エグゼクティブの採用においても実績のある経歴を持っている。また、2002年から2012年までオーストラリア全土でヘイズ・ロジスティクスとヘイズ・マニュファクチャリング・アンド・オペレーションズの立ち上げを担当した。