困難なときこそ試されるリーダーの信頼力
この数か月で、私たちはかつて経験したことのない変化と不安を経験し、ビジネスの世界も大きな影響を受けました。新型コロナウィルスがもたらした危機は、世界中の企業のビジネスモデルを変え、瞬く間に私たちの仕事の在り方を変えてしまったのです。
信頼関係を築いて危機を乗り越えることが大切
先行きが見えないこの時代は、多くの労働者にとって不安で落ち着かない時期でもあります。つまり、今こそリーダーの在り方が問われていると言っても良いでしょう。部下をサポートし、安心感を与えてあげてください。そうすれば、部下は落ちついて意欲的に仕事に取り組むことが出来るでしょう。この時に大切なのは、こうしたサポートや安心感が、部下と共感できる方法で与えられることです。つまり、あなたと部下の間には、信頼関係が成立していなければならないのです。
マルクス・C・ハセル博士は、ある報告書の中で、危機的な状況においてリーダーに対する信頼感が、どのような影響力を持つのかを調査していますが、その中で「予期せぬ展開」がリーダーの信頼感を失わせるきっかけになる、と訴えています。今、コロナ禍という予期せぬ事態の中、あなたと部下の間に隙間風が吹いている、ということはありませんか?今回の事態は、危機的なものでもあります。また、この危機により、突然テレワークを余儀なくされた部下たちは、心地の良い自宅で仕事をすると同時に様々な責任をこなしながら、生産性の高い仕事をしているとアピールする必要性に迫られているかもしれません。
テレワーク中の部下を信頼すること
皆さんの中には、部下たちが一部、または完全にテレワークに移行している方もいらっしゃると思います。部下を完全に信頼し、安心して仕事を任せていますか?数か月前であれば、テレワークの比重が増えることに不安を覚えることもあったでしょう。部下が実際に働く姿を目にすることがなかなか出来なくなるのですから。しかし、徐々にテレワーク中の部下をマネジメントすることにも慣れ始め、労働時間よりもパフォーマンスで部下を評価し、部下の生産性のレベルを把握することも出来るようになっているのではないでしょうか。
働き方の変化で、リーダーシップに求められるものも変わりました。部下の仕事を細かく管理する「マイクロ・マネジメント」は通用しない時代になります。部下が今朝も定刻に仕事を開始したのか、業務終了の20分前からは家族とおしゃべりに興じていたのではないか、いつもよりランチタイムを長めにとって、家族サービスに勤しんでいたのではないか。このようなことを管理できるはずがないのです。
今後、テレワークはさらに普及していくでしょう。新しい時代の働き方に対応し、成功していくためには、こうした不信感や思い込みに囚われてはなりません。ハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事によると、リーダーから信用されていると感じる労働者は、「パフォーマンスも高く、期待値を上回る努力をする」のです。リーダーの皆さんは、今も今後も部下を信頼し、部下の価値を理解していることを伝えてください。部下だけではなくチーム、会社のためにもなるはずです。
部下への信頼感を伝えることのメリット
デニス・レイナ博士を始め複数の研究者が、「信頼感のないチームは機能しない」と、唱えています。チームが経験する課題や問題が如何なるものであっても、信頼感はチームの要なのです。私たちは今、新しい働き方が求められる時代に入ろうとしています。部下への信頼を示すことが出来れば、チームの活力を向上させるだけではなく、以下のメリットも生まれます。
- 連帯感とモチベーション – プライベートや仕事で変化を迫られている昨今は、チームのモチベーションが、平時よりも低下している可能性があります。モチベーションの維持は、順調な時期でも難しいものです。ましてやお互いに離れて仕事をし、バーチャルなコミュニケーションしか取れなくなった昨今では猶更のことでしょう。しかし、だからこそあなたが部下への信頼感を示すことが大切なのです。部下は、信頼されていると感じれば、自分が大切にされていると認識し、テレワークやハイブリッド勤務など、新たな働き方にも効果的に対応していくでしょう。Auth0社のピープル・アンド・カルチャー部門のヴァイス・プレジデント、メリンダ・スターバード氏が言うように、「従業員は、自分が大切にされていると感じ、チームに対する帰属意識を持つようになると、より大きな力を発揮し、自分自身のためだけではなく、企業のために働くようになる」のです。当面の間、チームの全員が一堂に会することは出来なくなるかもしれません。このため、創意工夫して信頼感を築き上げ、モチベーションと士気を高めていくことが大切です。「平時」のように、チームランチや仕事の後の飲み会などは、当面の間は難しいでしょうから。
- 部下の自信 – 働く場所がオフィスであっても、キッチンであっても、上司から信頼されていると感じていれば、部下は心強さを感じて、「仕事の生産性が高いとアピールしなければならないのでは」などと悩むことなく、仕事に励み続けることが出来ます。現在は、ビジネスモデルも変化し、新しい働き方が求められています。部下を力づけることは、部下の自尊心を高めるだけではなく、このような変化に部下が自信を持って対応してくためにも必要なことなのです。また、ハーバード・ビジネス・レビュー誌が伝えているように、力づけられた部下は仕事の成果や仕事に対する満足度、組織に対するコミットメントも高いことが分かっています。これらは正に、企業がこの困難な時期に(そして将来においても)従業員に対して求めているものではないでしょうか。
- 自主性が心身の健康を向上させる – ケビン・テオ博士は自身のブログの中で、自律心(自主性)は最も基本的な心理的欲求の一つであると述べています。自主性とは、「自分自身が自由に行動出来るという感覚を持ち、また自分自身の行動に対する影響力を理解するとともに、これをコントロールしている自覚を持つ」ことです。たとえ部下がどこで働いていようとも、彼らを信頼し、時間の使い方については彼らに任せるようにしてみましょう。テオ博士の提言には、この困難な状況の中でも部下が精神的な健康を維持しながら新しい時代の働き方に備えていくにあたり、非常に大切な助言が含まれています。
- 部下からの信頼も生まれる – ハーバード・ビジネス・レビュー誌は、次のように伝えています。「信頼は信頼を生みます。人は、自分が信頼されると、相手のことも信頼するようになるのです。人は自分が信頼されていることを認識できなければ、その信頼に応えようとはしないものです」。信頼は、相手を尊重する強い関係を築くためには欠かせません。しかし、心の中で信頼しているだけでは不十分なのです。部下に、あなたが信頼していることを、確りと分かってもらうようにしましょう。そのためには、次の5つのステップが参考になります。
部下に信頼感を伝える5つの方法
1. 新しい時代の働き方に沿った習慣を見つけるために、部下に自主性を持たせる
外出規制が緩和されても、部下の中には家族や幼い子供の世話のために在宅勤務を継続しなければならず、オフィスへ出勤出来なかったり、通常の勤務時間に仕事が出来ない者もいるかもしれません。また、ウイルスへの感染を恐れて、オフィスに戻ることを躊躇する部下もいるかもしれませんし、オフィスに戻っても通勤ピーク時を避けて、遅めの出勤を望むものもいるかもしれません。どのような理由であっても、可能であれば働き方を彼らの自主性に任せてみてください。ヘイズUKのディレクター、カレン・ヤングは次のように語ります。「仕事ができるのであれば、働く場所は大きな問題にはならないはずです。仕事の成果は、毎日何時間机に向かっていたか、ということで決まるものではありません。結果と、その結果がもたらす価値によって判断されるものなのです」。部下に意思決定を任せてみましょう。働く時間や場所に関わらず、部下は自分の仕事をしてくれるはずです。
2. 部下の教育と人材開発へ投資を
今回の危機で生じた時間を活かして、あなたのチームが持つスキルを総合的に振り返りましょう。また、部下がキャリアを伸ばしていくために必要なスキルアップをどのように進めるべきかを考えてみましょう。新しい働き方が求められる時代になり、仕事に要求される姿勢も変化しました。あなたの部下がこれに遅れずについていくためにも、こうした振り返りは大切です。ハーバード・ビジネス・レビュー誌は、「部下の能力への投資や、部下への支援に前向きな姿勢を見せましょう。これが部下への信頼の証となるのです」と提唱しています。また、WebFX社の社長であり創立者でもあるウィリアム・クレイグ氏は、フォーブス誌の中で、部下の人材開発のために投資することで、部下は自分が大切にされていることを知り経営者を信頼するようになる、こうした関係が築かれれば、部下の転職は防ぐことが出来るようになる、と説明しています。
一人ひとり個別の人材開発計画を設定し、部下が目標を達成するために役立つトレーニングコースやウェビナーなどを探してみましょう。部下は、あなたが自分のことを気にかけて、精いっぱい自分の支援をしていることを知れば、冒頭で述べたように、十分に勇気づけられるものなのです。
3. 問題の解決に部下を巻き込む
あなたは現在、これまでに経験のない課題に向き合い、想像すらしていなかった決断を迫られているのかもしれません。職場復帰促進策の支援を求められているのかもしれませんし、市場ニーズの変化に対応するために新しいルートの開拓を任されているのかもしれません。さて、その課題がどのようなものであっても、解決策や新しいアイディアの発掘に部下の意見を求めてみてはいかがでしょうか?部下は、自分たちのアイディアや判断が尊重され、信頼されていると感じるでしょう。
意思決定に巻き込んでみるのも良いでしょう。例えば、戦略目標や職場復帰計画が変更された場合、これを知らせることでビジネスが変化していく様子を部下に伝えることが出来ます。こうしたコミュニケーションにより、部下はあなたをリーダーとして信頼するようになり、仕事に対するモチベーションも上がります。ヘイズUKのカレン・ヤングは、最近更新したブログで次のように伝えています。「先行き不透明な状況下で部下に必要な情報を知らせずにいると、部下はうわさ話を鵜呑みにしたり誤った決断をしたりするようになります。私の経験では、部下がふさぎ込んだり士気やモチベーション、生産性が低下するのは、ミスコミュニケーションやコミュニケーション不足によるところが大きいのです」。
4. 失敗やミスで責任を追及しない
今回の危機によって、仕事に求められる条件や課題は変化を迫られました。この傾向は、当面の間続いていくでしょう。つまり、あなたの部下もこれまで経験したことがない仕事や責任を引き受けなければならない状況になっているのです。多くの人々は、私たちの仕事を取り巻く環境が、危機以前と同じ状態に戻ることはないと考えています。つまり、現在の状況が今後は新しい日常として続く可能性が高いのです。あなたは部下に自信を持って新しい課題を引き受けてもらう必要があります。チームの気持ちを切り替えて、失敗を恐れずに仕事をしてもらいましょう。計画通りに進まなくても、これによって罰を受けたり非難されたりしないと知っていれば、部下のあなたに対する信頼感は強くなります。
責任を追及したり、失敗したら呼びつけるような習慣が根付いてしまうと、部下の信頼感は育ちません。それどころか、部下は不安を感じて失敗を恐れるようになり、リスクを回避するようになるでしょう。これでは、企業が将来の成長を望むことは出来ません。失敗や誤りは、成長のチャンスです。部下にはそう伝えて下さい。そうすれば、彼らはあなたが失敗や過ちで自分たちを追及することはせず、自分たちを信頼し、新しい可能性の追求を支援してくれるのだと知り、自信を持って仕事に臨むことが出来るようになります。
5. ワン・チームとして考え、行動する
今、あなたのチームに必要なのは一体感です。変化や混乱、新たな課題への対応が数週間、いえ、数ヶ月間も続いています。テレワークへの対応を突然迫られたとき、あなたの部下は精神的な打撃を受けてはいませんでしたか?そして、職場復帰が進む現在は、新たな不安や困惑に悩まされているかもしれません。
前述した通り、多くの企業がオフィス出勤とテレワークを兼用するハイブリッドな働き方を導入しています。私たちの働き方が新しい時代を迎え、技術によって効果的なコミュニケーションや協力が出来るようになったとしても、日常の仕事のやり方が変化してしまったことで部下が孤立感や、時には孤独感を感じている可能性もあります。
こんな時にリーダーのあなたに求められているのは、「ワン・チーム」を作るために出来る限りのことをすることです。ワン・チームとは、メンバー1人1人がチームに貢献し、大切にされているチームです。例えば、プレゼンテーションを行うときや他の部署とディスカッションするときには、「私たち」という言葉を意識的に使いあなたの部下に、自分たちが一つのチームであることを伝えていきましょう。それはまた、あなたが部下の仕事を認め、協力して大きな仕事を創り上げていることを示すことでもあります。部下への信頼を伝え、部下が大切な人材であり、チームの一員としての働きを評価していることを理解してもらいましょう。
危機的な状況である今だからこそ、部下への信頼感を伝えることがリーダーの務めです。私たちは今、これまでの知識が通用しない新しい時代に入ろうとしています。部下は生産的に働き、価値を生み出してくれると信じましょう。彼らを尊重し、チームの重要なメンバーの一人であると信用するのです。こうした姿勢は、現在だけではなく今後も求められていくことでしょう。
他にも、スキルアップやチームマネジメントに役立つ情報を紹介しています。こちらの記事もぜひご覧ください。
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